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□Several Days Later
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「何かあるんですね。わたしに足りないもの。言えないようなことが‥‥」
 奈理は小さな声で言って、じわりと涙目になる。

「わっ。な、泣くことがあるか! そんな、その。泣くな!」
 御剣は彼女の潤む瞳に気づくと、慌てて彼女の頬を両手で挟み覗き込む。

「じゃあ、なんなんですか?」

「トッ‥‥‥」

「と?」

「トノサマンだ! き、キミには、トノサマンをもっと好きになってもらいたいッ!」

「え? トノサマン、好きですよ?」

 御剣は彼女の顔の前に人差し指を立てて、チッチッと小さく舌を鳴らした。それから言い聞かせるように話し出した。

「この間、一緒に観ていて気づいたのだが、キミのトノサマンについての知識は非常に偏っているうえに誤っている。トノサマンスピアーXは、キミが思っているほど最強の技ではない。ここはシロウトが最も間違いやすい点だ。それから、トノサマンとアクダイカーンとの確執だが、これを深く理解するには、ドラマの中では断片的にしか語られていない背景を知る必要があるのだ。最近では、続編ばかりがもてはやされているが、やはり原点が大事なのだよ。ちょっと待っていたまえ」

 彼は、すっくと立ち上がり奈理をソファに残して書斎に入って行く。すぐにずっしりと重そうな本を持って戻ってきた。

「六法全書‥‥?」

 御剣がそのカバーを外すと、中から出てきたのは《トノサマン大百科》と記された分厚い本だった。

「重要な点を把握しないまま見ても、登場人物の行動の意味が理解できないだろう。それでは楽しみが半減してしまう。これをすべて読めとは言わないが、308ページからのネオ・オオエドシティについての解説と、キャラクター設定の部分は一度目を通しておいたほうがいい。武器と技については別冊によくまとめられた資料がある。これから一緒にトノサマンを楽しむにはやはりそれなりの知識を、だ、な‥‥‥」

「ぷふふ」

 奈理は、御剣が膝に置いた大百科をめくりながら話している途中で、我慢しきれず笑いを漏らした。

「なんだね!」

 突然笑われて、御剣は戸惑いとも照れともつかない表情を浮かべる。

「はい。トノサマンのこともっと勉強します」
 奈理は素直にうなずいた。「他にはないですか? わたしに足りないところ‥‥」

「ない」

 御剣は今度はきっぱりと言った。

「本当にですか?」

「ああ。あとはそのままで十分だ」

 御剣はそう言いながらトノサマン大百科を傍らに置いた。そして彼女に腕を回し胸に抱き寄せる。

「あとはこのままで十分だよ。奈理」
 彼は耳元で優しくそう繰り返す。
 彼女は背中に彼の温かい手を感じてもまだ、信じられなかった。今こうしてここにいる自分が。いつか信じられる日が来るのだろうか‥‥?


(おわり)


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