虹の検事局・前編
□プロローグ(2P)
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■20XX年1月5日 司法研修所■
新年度に採用予定の検察官――つまり検事の研修は、年明け早々、彼らがまだ司法修習生である1月から始まる。研修のスタートは、いつも検察のトップ、検事総長の激励のあいさつだ。
「今年はちょうど70名が新任検事として採用された。うち女性は25名。司法試験の壁、そして司法修習の競争を乗り越えた君達に、検事局は大いに期待している」
70名の修習生は、全員引き締まった表情で聞いている。2千人近くいる司法修習生の中から、希望通り検事に採用されるのは一握りである。
検事総長の挨拶が終わると、事務方の教官が、今後について説明を始めた。
「‥‥‥というわけで、3月いっぱいはこの研修所で集合教育を行う。講師は現役の法曹、法学部の教授などだ。4月からは、全員が一旦、地方検事局に配属され、そこで現場最前線で働く検事の下、実習を中心とした研修を半年間行う。司法制度改革で、近年かなりタイトな研修となっているが、積極的に取り組み、検察官としての実力を身につけていってもらいたい」
教官は、修習生を一通り見渡す。
「早速だが、4月からのおのおの指導担当検事をここで発表させてもらう。2、3名が1人の検事につくことになる。指導検事の実績などを事前に調べておくといいだろう」
A4の用紙一枚にまとめられた名簿が全員に配布された。夜芽仁菜もそれを受け取る。
ようやく念願の検事に採用された22才。彼女は、急いで自分の名前を探す。
夜芽仁菜の表記を見つけ、その左をたどると、「御剣 怜侍」と記載があった。天杉秀作という修習生と一緒のグループのようだ。
隣に座った女性修習生が、「指導検事は誰だった?」と声をかけてきた。
「ミツルギ、検事」仁菜は名簿を示す。
「ええーいいなぁ」女性は言った。「御剣検事って、検察一のエリートだよ‥‥。すごいイケメンだし。いいなぁ‥‥‥」