虹の検事局・前編

□プロローグ(2P)
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 仁菜は、研修についていくのが精いっぱいで、検事局についての予備知識を得る余裕はほとんどなかった。
「私なんて、一柳検事だよ。彼、若いからなあ‥‥大丈夫かなあ」
「内情に詳しいんだね‥‥‥」
「学生時代に、検事局でバイトしてたんだ」

(どうりで)仁菜は納得した。

 名簿には、それ以外に、亜内、狩魔、牙琉、ゴドーなどの検事の名前があった。
「こないだ希望の指導検事を書かされたじゃない? あんまり関係ないのかな」
「そうだね、私も希望の検事じゃない」
「そうなんだ。誰を書いたの?」
「ゴドー検事」
「ああ、あの渋い人ね。なぜにあの人?」
「いや‥‥なんとなく名前で‥‥‥」仁菜は笑いながら答えた。

 採用説明会が終わり、担当検事が誰かでごった返す中、仁菜は、4月から同じ検事につくことになる天杉秀作を探しだして、挨拶をした。彼の兄弟が刑事事件関係者になったことをきっかけに、検事を目指したという話だった。


■4月2日 地方検事局 12階 上級検事執務室■

 桜が満開の頃、夜芽仁菜たちは、はじめて御剣怜侍検事に対面した。
 すらりとした長身を、赤味がかった色のスーツで包んでいる。噂通り整った顔立ちで、厳しく知的な雰囲気だ。視線は、向けられると意味なくドキッとするような鋭利さがある。

「御剣怜侍だ。これから半年だが、キミたち2人は私のもとで、検事としての実務を一通り学んでもらうことになる。さまざまな困難があるだろうが、ぜひとも頑張ってほしい」
 落ち着いて深みのある声で御剣が言った。26歳とは思えない威厳がある。

「ハイ!!」仁菜と天杉は緊張した面持ちで返事をする。

 その後、2人は御剣が現在抱えているいくつかの事件についての説明を受けた。その中には社会的に注目されている難事件もあるため、今年、彼が担当する新任検事は、本来3人のところ2人になっているという。

「期待に沿えるように頑張ります!」と、きびきび言って深く一礼する天杉と一緒に、仁菜もあわてて頭を下げた。

 早速その日から、2人は大量の捜査資料を手渡され、明日までに目を通しておくように言われた。初日は、ほとんどのグループが、親睦会ために早々に切り上げて検事局を出て行くのと対照的だ。

 厳しい研修の日々のスタートだった。
                   

 (つづく) →第1話へ 

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