虹の検事局・前編

□第1話(3P)
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「うム、300枚だ!それなのにキサマ‥‥‥キミはッ!!」あとは怒りで言葉にならない。
 仁菜はふと我に返って、「で、でも私、そんなに乱暴に開け閉めしていません」

「フッ、何をいまさら。よく聞きたまえ」御剣は、人差し指を仁菜の前につきつけた。
「この大江戸戦士トノサマン100回放送記念人形は、見てもわかるように非常に安定した形体だ。それがこのように倒れるというのは、キサ‥‥キミがやった以外に誰が考えられるのだ! もとより私は毎朝この状態を確認しているし、今朝も例外ではない。そして、今日、私とキミ以外にこの執務室に入った人間はいない!」

 鋭い眼光で射すくめられ、仁菜は言葉を失った。まるで法廷に立たされた被告の心境だ‥‥‥。
「キミが、もし記憶にないとしたら、その乱暴な所作で、日常的に気づかないところでいろんなものを破壊しているにちがいない。‥‥‥女性だからと過信した私がバカだった」
 御剣は今度はガックリ肩を落とし、片手で頭を抱えた。

 いつも冷静な御剣が、ここまで乱れるとは、よほど大切なものだったに違いない。確かに自分は荒っぽいところがある。子供の頃から、よくたしなめられていたことを仁菜は思い出した。
「す、すみません」申し訳ない気持ちになり、仁菜は謝った。

 御剣はもう一度深く溜息をつくと、「もういい、帰りたまえ」と手を払うようにして、背を向けて執務椅子に向かう。
 そして背を向けたまま、「キミとの予定は、明日あっただろうか」と聞く。

「いえ、明日は御剣検事の研修はありません」御剣の背中に向かって、仁菜は答えた。

「それはよかった」

 執務室の扉を閉めた途端、御剣の最後の言葉が胸に響き、悲しい気持ちになった。仁菜もまたがっくりと肩を落とした。

 * * * *

 御剣は仁菜が出て行った後、何回目かの溜息をついて、窓から外の風景を眺めた。壊れたトノサマンに気づく前に入れていた紅茶はすっかりぬるくなっていたが、窓の外を見ながら、一口二口飲むと、気持ちがだいぶ落ち着いた。

 窓から検事局の前庭を見下ろすと、仁菜らしき人物がとぼとぼ帰って行くのが小さく見えた。
 そして前庭の真ん中ぐらいまで歩いたところで、何かにつまづいて、派手に転び、バッグが、3メートルぐらい先まで飛んでいく。
(何をやってるんだ‥‥‥)御剣は思わず苦笑した。

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