虹の検事局・前編

□第2話(3P)
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■5月8日 地方裁判所 1階ロビー■

 次の日の早朝、仁菜は他のグループの数名の新任検事とともに、地方裁判所のロビーで、今日の指導担当である牙琉響也検事の到着を待っていた。

 集まっていたのは、牙琉検事が担当している男性新任3名と、ゴドー検事が担当するこちらは女性3名と、天杉と仁菜の計8名。このような合同の研修は、新任検事同士が知り合う機会にもなっている。
 今日は、検事局の隣のブロックにある裁判所で、3つの裁判を傍聴する予定だ。

 時間ぴったりに、牙琉響也が現れた。細身の黒いパンツとブーツ、銀色にも見える亜麻色の長髪、繊細な指にゴツいリング。
 まるで検事には似つかわしくないスタイルだが、あまりに有名なので裁判所内でも違和感がない。彼が検事でありながら、ガリューウエーブという人気バンドをやっているというのは、このあたりで知らない者はいなかった。

「おはよう! みんな今日も元気かな? では早速行こうか」
 そう軽快に言うと、響也は憂いを帯びた青みがかった瞳で全員を見まわし、微笑んだ。

 仁菜は、雑誌などで知っていたが、響也を間近で見たのは初めてだった。日本人離れをした整った甘いマスクをしていて、近くに行くと、甘い香りまでする。検事としての能力も高く、入局以来、同期の中では常にナンバーワンの成績だと聞く。

 颯爽と歩いて行く響也の後を、皆、小走りで追った。仁菜は、昨夜転んだ際に、しこたまぶつけたひじをさすりながらついていった。


■同日 地方検事局 12階 上級検事執務室■

 同じ頃、御剣が執務室で午後からの法廷の資料をそろえていると、コート姿の大柄な男がノックもそこそこに飛び込んできた。

「イトノコギリ刑事、いつも騒々しいな。もっと静かにできないのか」
「御剣検事! それどころじゃないッスよ」と糸鋸は執務室の中をぐるぐる見回す。
 ドスドス足音を立てて歩きながら、天井から床まで見まわる糸鋸に御剣は声をかける。
「一体何があったというのだ」

 
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