虹の検事局・前編

□第2話(3P)
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「犯人はなぜそんなところに金庫があると知っていたのだ!?」
「わかりません。関係者の犯罪かもしれないッス。何しろ、亜内検事はそこに、1千万円のへそくりをしていたらしいッスから。それを狙って、ついでに他の獲物も探したんじゃないッスかね。検事さんたちはみんな金持ちッスからね。御剣検事もトノサマンのプレミアグッズなんか入れてたら、大変なことになったッスよ。わははははは」

「イトノコギリ刑事!」
 御剣は、怒鳴った。糸鋸はびくっとして両手を体の脇につけ直立不動の姿勢になる。
「な、なんでしょうか、御剣検事どの」
「なぜそれを昨日のうちに私に報告しなかったのだ!」

 厳しい指摘に、糸鋸は焦って答えた。
「‥‥あ、亜内検事が盗難に気づいたのが、今日の早朝だったッス。室内に荒らされた跡がなかったため、昨日はだれも気づかなかったッス」
「うむむむむむ‥‥」御剣は唸った。

 トノサマン人形がこうむった被害について、御剣が説明を始めると、糸鋸はみるみる青ざめ、冷や汗をダラダラとかきだした。
「あ、あとで、被害届用紙もってくるッス!!」と、話もそこそこに飛び出していった。

 糸鋸が出て行った後も、御剣は、ズボンのポケットに両手を入れるいつものポーズで、苦虫をかみつぶしたような顔をして、本棚を見つめていた。棚を動かした跡、外部からの侵入者、犯人はすでに明らかだ。
 真犯人への怒りと同時に、昨夜の仁菜の困惑した表情が頭に浮かんでは消えた。

(ずいぶんと、ひどいことをしてしまったようだ‥‥‥)
 御剣は眉を寄せながら、新任研修スケジュールの書類を探した。今日、仁菜たちは、御剣と同じく裁判所で、牙琉検事による現場演習だ。
 牙琉検事か‥‥‥御剣の眉間のシワが少しだけ深くなった。

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