虹の検事局・前編

□第3話(4P)
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「アレはキミではなかった。あの後に、真犯人が‥‥わかったのだ。状況証拠だけでキミを犯人に仕立て上げ、あのように責めたて、ひどいことを言ってしまった。私が愚かだったと反省している。ほんとうにすまない」
 御剣は一気に言って、テーブルに手をつき頭を下げた。前髪が、さらりと顔にかかる。

 仁菜は「そうですか‥‥」と答える。

 そして、しばらく沈黙した後、「‥‥‥ほんとに残念でしたね」と静かに言った。

「‥‥‥?」御剣が顔を上げる。

「大切なものが壊れてしまって」

 意外な言葉に驚いたのか、ロビーにこもった熱気のせいか、御剣の白い頬がうっすら赤く染まる。
「うム、お気づかい感謝する」と、彼はとりあえず、それだけ言った。
「こちらこそ、わざわざ来ていただいて感謝します」今度は仁菜が頭を下げた。

「‥‥‥無実の罪で責められたことを、キミは追及しないのか?」御剣は複雑な心境で聞く。
「ですが、一番の被害者は御剣検事ですから」
「ま、まあそれはそうなのだが‥‥‥キミはそれでいいのだろうか?」御剣は戸惑う。
(優等生すぎるのか鈍感すぎるのか‥‥‥)
 何事もなかったようにしている仁菜を、御剣は不思議なものでも見るように見た。

 仁菜はその視線を受け止め、「じゃ、今回のことは、御剣検事に貸し1つってことにします」と言うと、屈託なく笑った。

「御剣検事も、牙琉検事のおすすめのバー、一緒に行きますか?」
 ソファから立ち上がりながら仁菜が聞いた。
「いや私は結構」
「ですよね」
「ム‥‥それはどういう意味だろうか」御剣はやや憮然として答える。
「なんでもないです」

 笑顔のまま軽く会釈して去っていく仁菜を、御剣は見守った。その後ろ姿を眺めながら、彼女は、自分とは全く違うタイプの検事になっていくだろうと感じていた。

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