虹の検事局・前編

□第6話(3P)
1ページ/3ページ


■7月10日 地方検事局 16階 特別会議室■

 この日、仁菜たちの研修は、幹部用の豪華な会議室で行われた。マホガニーの円卓のまわりに、上級検事執務室にあるような黒い革の椅子が20脚ばかり並んでいる。新任研修用にはなかなか使えないが、いつもの会議室が空いていないときは利用できる。

 午前9時ごろ、仁菜と天杉が自習しながら御剣を待っているとき、天杉の携帯が鳴った。
 誰だろう?と言いながら出た天杉だったが「はい‥‥はい‥‥」と頷きながら、みるみる青ざめていった。初めて見る天杉の表情に、仁菜は不安な気持ちになる。
 電話を切っても、天杉は青い顔をしていた。
「どうしたんですか?」

「検事審査会から呼び出された‥‥‥」
「えっ」
「ちょっと行ってくる」
 立ち上がる天杉を、仁菜も立ち上がって止めた。
「御剣検事に相談してからのほうがいいんじゃないですか?」
「御剣検事にはもう連絡が行っているらしい」

 その時、ちょうど御剣が部屋に入ってきた。2人のただならぬ様子を一瞥して、
「天杉くん、とにかく審査会へ行ってきたまえ。話はあとで聞こう」
「は、はい。すみません!!」天杉は部屋を飛び出していった。

 検事審査会は、ここからほど近い場所、ビッグタワーにある機関だ。検事の仕事を監視するために、強力な権力を与えられた組織で、検事がもっとも恐れるものの一つである。
 天杉を見送り、立ったまま、ぼーっとしている仁菜に、御剣は「つっ立ってないで、始めるぞ」と声をかけた。そして「この部屋は暑いな」とつぶやきながら、ワインレッドの上着を脱いで、空いた椅子の上に投げる。

 仁菜はあわてて冷房を調整するが、窓が大きく日当たりがいいせいか、なかなか効かない。
 黒いウエストコート姿になると、御剣の純白のシャツがまぶしい。繊細で端正な顔に似合わず、肩幅が広くて胸板が厚いのが、上着を脱ぐと、よくわかる。

 彼女は見慣れぬ御剣の姿に少しどぎまぎする。整った容姿と、明晰な頭脳と、冷静な性格と‥‥‥この人に欠点なんてあるんだろうか?とちょっとだけくやしく思う。

 仁菜は、御剣の正面に座って、指示された英文の専門書を読み始めるが、天杉がどうなるのかが気になって頭に入ってこない。
「一体何があったんでしょうか?」眉間にシワをよせて御剣に聞く。

 彼は、椅子を横向きに回転させ、足を組んで、自分の抱える訴訟の資料を読んでいた。
「取調べで、違法行為があったと聞いている。天杉くんが帰ってくればわかるだろう。とにかく黙ってその本を読みたまえ。あとで質問するからな」彼は、資料に目を落としたまま言った。

 
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ