虹の検事局・前編

□第6話(3P)
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「まさかこんな大問題になるとは思わなくて‥‥‥すみません!!」
「今の話、確かだな?」と鋭い目で天杉を見る。天杉は真剣な顔で「はい」とうなずいた。

「わかった」
 御剣は低く言い、放り投げてあった上着を取って立ち上がった。
 天杉は涙目になり、すがるような必死の形相で御剣を見つめている。仁菜も、眉間にぎゅっとシワを寄せて、一生懸命な目で御剣を見つめる。
 御剣はそんな2人の顔をかわるがわる見ると、フッと表情を緩め、「心配するな」とひとこと言って、さっと上着をはおって出て行った。

 その後ろ姿を見て、天杉と仁菜は、深く溜息をついた。天杉の目はうるんで今にも泣きそうだったが、頬にはやっと少しだけ赤味が戻った。

 御剣が出て行ったのが12時頃、そのあと、午後3時になっても戻ってくる気配がないので、仁菜は「お茶でも飲みに行きませんか?」と天杉に声をかける。食欲は出ないが、お腹が鳴る。
「ここで御剣検事の帰りを待ちます」と天杉が神妙に言う。
 そうですよね、と仁菜も答えた。

 * * * *

 熱い太陽が陰った午後5時過ぎ、やっと御剣が戻って来た。さすがに顔には疲労の色が浮かんでいる。会議室の椅子にどっかと腰を下ろす御剣に、仁菜は「飲み物でも持ってきましょうか?」と声をかけた。
「いや結構。あちこちでお茶を飲みすぎだ」
「申し訳ありません!!!」天杉が深く頭を下げる。

「うム‥‥‥‥被疑者の担当弁護士と、審査会委員と話をしてきた」
「は、はい‥‥‥」天杉が神妙にうなづく。
「審査要求は取り下げになった」御剣は淡々と言った。

「えっ!?」天杉と仁菜が目を丸くして叫ぶ。
 この半日で、御剣検事は一体何をしたのだろう。考えられるとすれば、担当弁護士と司法取引して、被疑者を不起訴にしたとか? 

「それから、被疑者は私が再度取調べをして起訴しておいた」
「えええっ!?」
 たぶん、天杉も同じことを考えていたに違いない。さっきより大きい声で2人は叫んだ。

「以上だ。キミたちも疲れただろう。今日はもう帰りたまえ」

 天杉は、御剣に向かって、体が折れるほど頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました!!」涙声だった。
 御剣は軽くうなずいて立ち上がると、執務室に戻って行った。

 仁菜は、御剣はやっぱり天才検事だと思った。何をしたのかはわからないけどすごい‥‥。
「カッコイイ‥‥」仁菜は思わず言った。天杉もはげしく頷いた。

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