虹の検事局・前編

□第7話(5P)
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■7月17日 地方検事局 地下2階 資料室■

 仁菜は、御剣に頼まれた裁判資料を、今日も地下の資料室で探していた。研修中の検事は、過去の資料を調べることが多い。隣の書架で、同じように資料を探す女性たちがいる。
 彼女らも検察官だろうか? 事務官かもしれないし、事務職員かもしれない。探しながら局内の男性の噂話をしている。

「ところで御剣検事と牙琉検事、どっちが好き?」片方の女性が聞く。
 あまりにストレートな会話に仁菜は吹き出しそうになる。
「うーん、難しいけど御剣検事かな。牙琉検事もカッコいいけど、浮気されそうで心配だよね。まわりに女性の影多すぎだし、なんか軽い感じだし」もう1人の女性が答える。

「その点、御剣検事は女っ気なくていいよね。彼女もいなさそうじゃない?」
「いないらしいよ。助手の刑事から聞いた人の話だと」
(そうなんだ‥‥‥)仁菜は、ただの噂だはと思いつつ、なんとなくうれしくなる。

「でも、御剣検事、いつも怖い顔してて取りつく島ないからなあ。冷たい感じだよね。笑ったところ、見たことある?」
「ないねー、ない」
(私もない)仁菜も思った。

 御剣検事に指導を受けはじめて3ヶ月以上が過ぎたが、笑っているところどころか、微笑みすら見たことがない。口の端だけの皮肉な笑いや、苦笑いをたまに見るだけだ。

 ただ、一見冷酷な感じはするが、常に冷静で怜悧なだけで、内面は温かいところがある人だと思う。なにより仕事では頼りがいがあって、本当に尊敬できる検事だ。
 私も、あんな風にかっこよく仕事ができる検事になりたい。

 資料をそろえて、御剣の執務室に向かう間にも、そういえば御剣の笑い声も聞いたことないな‥‥‥いつか聞いてみたいな、と仁菜は思った。

 執務室の前について、ノックしようとしたとき、中から男性の笑い声が聞こえた。女性の声も聞こえる。(誰だろう?)と思いながら、控えめにノックする。
 談笑が続いて、気づかれないようなので、もう一度今度は大き目にノックすると、笑い声が止まって、「入りたまえ」という御剣の声がする。

  
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