虹の検事局・前編

□第8話(4P)
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「御剣検事、今日こわかったよね」
「うん、夜芽さん、かわいそうだった」
 彼女たちの、夜芽という言葉に、ゴドーは執務机から顔をあげた。
「‥‥何かあったのか? 話してみな‥‥」

 1人が答える。「夜芽さんが、御剣検事にものすごく怒られて‥‥‥まあ課題忘れたのも問題なんですけど」
「でも今まで、あんなに怒ることなかったよね。苦虫をかみつぶしたような顔はされるけど」
「それも十分怖いんだけどね。でも‥‥夜中まで出歩くなって言われてたけど、何だろう。夜芽さん、御剣検事に夜遊びでも見られたのかな?」

 ゴドーのコーヒーを飲む手がぴたりと止まった。

「あの2人、いい師弟関係って感じだったのにね。でも、御剣検事って怖いけどほんとカッコイイよね。怒ってる時の顔も、ドキドキしちゃった」
 一番前に座って、崇拝と恐怖のあまり涙目になっていたのは彼女である。「なんだか夜芽さんがちょっとうらやましかったな。私も御剣検事にあんな風に、真剣に怒られてみたい」

「いやだー私は怖くて顔も上げられなかった」と、もう1人は言い、「私はゴドー検事でよかったぁ‥‥‥」と甘えたように付け加えた。

「クッ、よせやい。‥‥テレちまうぜ、コネコちゃん」ゴドーは軽く返した。
 セクハラっぽい発言でもゴドーだけは許される。そう言われた新任はぽっと頬を染めた。
 が、ゴドーはそれに気づきもせず、椅子をくるりと回転させて、13階の窓の外を眺めながら、考え込んだ。


 12階の執務室では、御剣が同じように執務椅子を窓の方へ向け、腕組みをして考え込んでいた。今までも、今日のように新任たちを厳しく叱責したことは何度もあるし、怒鳴ったこともある。しかし、このような感情になったことはなかった。
 理由のはっきりしない罪悪感と、後悔のような苦い気持ちが、彼の心を乱していた。


 検事局の近くにある、官舎の一室では、仁菜がベッドにつっぷしていた。課題をおろそかにしてしまったことに、強い自己嫌悪を感じていた。
(最近の私はおかしい‥‥‥‥。何かにひどく焦って、そして空回りしている)
 御剣検事の冷たい声が、狩魔検事との会話で聞いた声と、あまりも違うことが悲しく、苦しかった。

 (つづく) →第9話へ 

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