虹の検事局・前編

□第10話(4P)
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■8月16日 地方裁判所 5階 職員用カフェ■

 夏休み期間が終わり、裁判所もいつもの混雑を取り戻しつつあった。当然のことながら、研修中の新任検事にも、指導担当にも夏休みを取る余裕はない。

 この日、御剣は法廷の合間に、裁判所の職員用のカフェに立ち寄った。外に持ち出せない裁判資料を抱えているときは、ここを利用することが多い。水っぽい紅茶を飲みながら、資料を確かめていると、頭の上から、「座っていいかな」と男の声がかかった。

 見上げると、ゴドーが白いコーヒーカップを片手に立っている。あの夜以来だから、2週間ぶりぐらいだろうか。ゴドーとはたまに一緒になるが、目礼するぐらいで、同席することはない。珍しいな、と御剣は思いつつ席を勧める。

「じゃ、ちょっと座らせてもらうぜ。忙しそうだから単刀直入に言おう」
 御剣は何事かと、ティーカップを降ろす。

「仁菜ちゃ‥‥‥いや夜芽クンのことだが、ちょっとアンタに誤解があるんじゃないかと思ってな」
「‥‥誤解?」
「早くアンタと話したかったが、このところ、海外出張でね。あれ以来、彼女とも話せずオレもまいってる‥‥ぜ」

 ゴドーは、コーヒーをゴクゴクと飲むと、大きいマグカップをドン!とテーブルに置いた。コーヒーがかからないように、御剣が慌てて資料を避ける。

「実は、オレは夜芽クンの兄貴と同じ大学で‥‥‥親友だった」

(‥‥‥!?)御剣は、話の意外な展開に驚いて、ゴドーの顔を見た。
「その様子じゃ、やっぱり聞いてないようだな。アイツの兄貴は、優秀な法学部の学生だった‥‥ぜ‥‥‥」
「だった‥‥?」御剣は聞き返した。

「クッ、さすが天才検事は鋭いぜ。アイツの兄貴は、大学3年のとき、司法試験に受かったその年に殺された」
「殺された!?」御剣はさらなる驚きで、腰を浮かしそうになった。「一体だれに?」

  
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