虹の検事局・前編

□第11話(3P)
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■8月17日 地方検事局官舎前 並木通り■

 朝の通勤時間には、官舎から検事局まで、出勤者の列が続く。仁菜もその列に混じって、検事局に向かっていた。ケヤキ並木の広い歩道には、木漏れ日がまばゆく落ちて、今日も暑くなりそうな予感がする。

「夜芽さん、おはよう」
 後ろから男の声がした。振り返ると、牙琉検事が指導している新任検事の1人だった。
「あ、おはようございます」

「研修期間も、もうあと1ヶ月ちょっとなんだね。早いよね」彼は言う。
 ここまであっという間だった、と仁菜も思う。御剣検事に指導してもらうのもあと1ヶ月なのかと思うと、胸の奥のほうが少しだけ痛くなる。

「ところで、知ってる? 狩魔検事のところの新任検事が1人、外されたんだって」
「えっ? 外された?」仁菜は驚く。
「国際派検事には不向きという、狩魔冥女史の判断が下ったらしいよ」

「狩魔班はみんな海外留学組で、レベル高いって話だったのに‥‥」
「でもほら、一人、いつもムチのアザつけてるヤツいたろ? 彼だよ彼」
「この時期に外されたら、どうなっちゃうんだろう‥‥‥」仁菜はうつむく。
「遠方の小規模検事局に飛ばされるって噂だよ」

 仁菜は今一番、聞きたくない話だった。不安が胸に広がる。今のような状態では、自分もいつ外されるかわからない。遠い地方に飛ばされたら、兄の事件の捜査は難しくなる。いやな汗が出てきそうだった。
 とにかく、昨夜決めたことを、御剣検事にちゃんと言わないと‥‥‥。


 30分ほど前に会議室に入ると、室内には珍しくすでに御剣がいた。
 明るい窓を背にして、手に持った書類を読んでいる。その端正で静かな表情を見て、仁菜の緊張は高まった。

「お、おはようございます」仁菜は硬くなって挨拶をする。
 彼は仁菜をちらりと見て「おはよう」と低う言うと、また手元の書面に目を落とした。

 
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