虹の検事局・前編

□第12話(4P)
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■9月3日 地方検事局 12階 会議室■

 研修も、早くも残すところ1ヶ月を切った。内容も、どんどん難易度が高いものになり、明日は、仁菜が初めて実際の公判で被告人質問をする日である。今日は、朝一からその準備と模擬をする予定だった。

 仁菜は3分前という、ぎりぎりの時間に、会議室に飛び込んできた。御剣がまだ来ていないことを確認して、ほっと胸をなでおろす。
 彼女は、珍しく、さわやかなブルーのワンピースを着ていた。やわらかい素材でできていて、袖口や、スカートのすそが、ふんわりしている。髪も毛先がカールしているし、睫毛もいつもよりずっと長い。

「夜芽さん、今日はずいぶん印象が違うね! 裁判長を幻惑する作戦かい?」
 天杉が笑いながら冷やかすと、
「今日は模擬なのに、それはないです」と照れ隠しか、あえて淡々と仁菜が言う。「コンパですよ。合コン。久々にお洒落しようとしたら、時間かかっちゃって」

「合コン!!」天杉は、驚く。「初の公判前に、ずいぶん余裕だね」
「しっ! 前日にコンパ行くなんてバレたら、御剣検事に怒られます。友達に、どうしても人数が足りないからって頼まれて。行くなら行くで、頑張っちゃう性格なので」

「相手はどんな人達?」
「全員外科医だという話です。友達のお姉さんも外科医で、そのコネで‥‥‥」
「いいじゃない。外科医と検事、ドラマに出てきそうなカップルになれるよ」

 天杉と仁菜がヒソヒソ話していると、いつの間にか、御剣が後ろに立っていて、「おはよう」と声をかけられた。
「どこに行こうが、明日の法廷でちゃんと結果を出せるなら、私はかまわないが?」
 腕組みをして2人を見下ろしている。
「お、おはようございます!」天杉と仁菜が焦って立ち上がり、挨拶する。

 全員が椅子に座り、一息ついたとき、なごませようとして天杉が言った。
「それにしても、ほんと、今日の夜芽さん見違えますよ。ねえ、御剣検事」
 一時期、御剣と仁菜の間に、冷たい空気が流れていたが、ここ最近は、平和が戻っていた。

 御剣は、ちらりと仁菜の様子を一瞥し、「ム‥‥‥」と唸る。
「私は女性のそういうアレにはうといのだ‥‥いつもと感じが違うのはわかるが」
「こういうのは正直な感想を言えばいいんですよ、御剣検事」天杉が助け舟を出す。

 
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