虹の検事局・前編

□第14話(4P)
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■9月27日 地方裁判所 第3法廷■

 研修期間もいよいよ残り1日となったその日、仁菜と天杉の2人は、裁判所第3法廷の傍聴席の隅にひっそり座っていた。配属先に異動する前に、最後にもう一度、御剣の担当する公判を傍聴したいという天杉のたっての願いに、仁菜も付き合っていた。

 彼女も、天杉の気持ちはよくわかった。裁判実習では、何度も御剣の隣に立って、公判に出席してきた。しかし自分ももし、この地方検事局を離れることになるとしたら、御剣の法廷での姿を、最後に見ておきたいと思うに違いない。

 そこで2人は、今日の研修担当であるゴドーに頼み込み、御剣に内緒で法廷にもぐり込んだのである。

 今日の裁判は、女性被告人の連続詐欺殺人事件。仁菜たちも、微力ながら捜査やデータ収集などを手伝った事件だ。世間で注目されている事件でもあり、傍聴人の中にはマスコミ関係者も多いようだ。

 背筋を伸ばして検察席に立ち、きりりとした顔つきの御剣は、遠くから見ても凛々しく堂々としている。

 法廷の正面には、法の女神が持つ天秤の絵が掲げてある。女神が手に持っているのは、正義の象徴である天秤と、力の象徴である剣。
 剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力‥‥‥法を学び始めてから、仁菜が何度も耳にしてきた言葉だ。御剣検事は、正義と力、その両方を併せ持つべく、誰よりもひたむきに追及し続けている人なんだ、と仁菜は思う。その努力こそが天才と呼ばれるゆえんなのだ、と。


 裁判長が小槌を高らかに叩いて審理の開始を告げる。法廷内に緊張が走り、水を打ったように静まり返った。

「これより開廷します」
「弁護側、準備完了しています」
「検察側、もとより」
 冷静な目線で弁護側を見据えながら、御剣が低いがよく通る声で言う。

「では御剣検事、冒頭陳述を」
 御剣は、いつものように書面を片手に持ちながら、これから立証しようとする事件の概要についてとうとうと述べた。



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