虹の検事局・後編

□第16話(4P)
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「ふぅん」飲み物を作りながら、マスターは話し続ける。「それにしてもあのヒト、目が覚めるようなイケメンよねぇ。あんなカッコイイ人、アタシ、今まで見たことないわ。あの瞳でじいっと見られた時、時間が止まるかと思ったわ‥‥‥」
 マスターはちょっと、頬を染める。「あんなに上品でシャープな顔立ちなのに、体や手は、しっかりと男らしくて‥‥‥」

(‥‥‥‥‥)
 仁菜は無言で、ビールを飲む。私を迎えに来て、出て行くまでの短時間で、良く見てたなあ、と感心する。

 マスターはさらに続ける。
「職場にあんなヒトがいるなんて、ほんッと羨ましいわ。検事局ってガリューもいるんでしょ? すッごいトコよね。あぁ検事局で働きたい。ねー、こんど、あのクールなイケメン検事、連れてきてよぉ」

「だから、そんなプライベートな関係じゃないんですってば」
「そうなの? あの夜、アナタのこと見る目は、結構いい感じだったけどねえ。アタシの勘は鋭いのよ」
「そんなことないと思います。だいたい、それらしき雰囲気も言葉も全くないし」

「言葉?? オトコは言葉じゃなくて行動を見るのよ」いきなりきっぱり言う。

「行動‥‥?」
「そうよ。あの時も、走って探しに来てくれたんでしょ」
「それは‥‥‥指導担当としての責任感じゃないかなと‥‥‥」
「そうかしら? 他の人にもそうしたと思う?」
「‥‥‥たぶん。あの人は、ああ見えて、意外と面倒見いいんですよ」

「じゃあ、他に、ないの? 指導担当としての範囲を超えて、あなただけのためにやってくれたこととか」
「あ‥‥‥」仁菜は思い当たる。あの黄色いフォルダ。
「ほらね」
 彼女は、マスターに「すいません」と思わず謝る。

 兄の事件について、御剣はものすごく時間と労力を割いてくれていると思う。でも、それは、検事としての正義感かもしれないし‥‥‥。とにかく正義の人だから‥‥‥。
「混乱させないでくださいよ、もう!」
 仁菜は残りのビールを一気に飲む。


 甘い言葉は何もない‥‥‥。だけど、私のために、行動してくれている。
 もしかして?‥‥‥いやいやまさか。

 帰り道、ひんやりとした風に吹かれながらも、頬がほてるのが、ビールのせいなのか、マスターの言った言葉のせいなのか、仁菜にはわからなかった。

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