虹の検事局・後編
□第17話(4P)
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■11月10日 ひのまる漁港近く 倉庫街■
この日、仁菜は上司である亜内検事と共に、ひのまる漁港に出向いた。被疑者の証言により、現在捜査中の事件の犯行現場が特定されたという。場所は、漁港近くの倉庫が立ち並ぶ一帯だ。別のルートからこの事件を捜査中だった、もう1つのチームもすでに入っているらしい。
仁菜は、現場である倉庫に、上司に続いて足を踏み入れた。中は木枠の箱やコンテナが並び、高い位置にある窓から光が差し込んでいるだけで、かなり薄暗い。光の中に細かい塵が舞っている。暗さに目が慣れてくると、奥に赤いスーツと、カーキ色のコートが見えた。もう1つの捜査チームというのは、御剣たちだったのか‥‥‥。予想していなかった遭遇に、仁菜の心はときめく。彼女は、2人のほうへ歩いていく上司について行った。
御剣は、こちらに背中を見せて、糸鋸と話をしていた。
「御剣クン」亜内が声をかける。「所轄から連絡をもらって、私達も参加させてもらうことになった。よろしく頼みます」
御剣が振り返った。
彼は、白いマスクをしていた。目だけしか見えないが、その目は、突然現れた仁菜をみとめてか、少し驚いた表情を浮かべる。彼女も目礼する。
「亜内検事、おつかれさまッス。夜芽検事もおひさしぶりッス!」
糸鋸の言葉に、仁菜も「お久しぶりです」と頭を下げる。そのやりとりを聞いた亜内が、「ああ、君は、御剣クンが指導担当だったかね」と言う。
仁菜は「はい」とうなずいた。
「お風邪ですか? 花粉の季節じゃないですよね‥‥‥」
糸鋸の案内で、現場に向かって歩きながら、仁菜が御剣に声をかけた。
「ホコリっぽいところが苦手なのだ。キミも必要なら刑事にもらうといい」
「いえ、私は大丈夫です」
マスクをかけた御剣は、目元の端正さや鋭さが際立って見える。仁菜は先日、マスターが言っていた言葉もあれこれと思い出され、なかなかその目を正視できない。
「現場はこの下の地下1階です」
糸鋸刑事が指し示す方向には、長いスロープ状の通路が、階下に続いていた。糸鋸を先頭に、御剣と亜内が先に、そのあとに数名の警官が続く。検事たちも警官に渡された白手袋を着用した。御剣は歩きながら、何回かクシャミをしている。
仁菜は何枚かあたりの写真を取って後に続いたが、急いで追いかけようとしたのがいけなかった。スロープを走り出したら、足が止まらなくなったのだ。足の回転はどんどん速くなり、スピードが出る。