虹の検事局・後編

□第17話(4P)
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 その日の夜、官舎の自室で、仁菜は、御剣に抱きとめられた時のことを思い出してぼーっとしていた。すると、机の上に置いた携帯がブルブルと震え出す。ディスプレイには“御剣検事(携帯)”と表示されていた。

 彼女は、慌てて携帯を取り上げると同時に、ペン立てをひっくり返してしまい、ペンが机の下まで落ちて、騒々しい音がする。
「は、はい、夜芽です」

「遅くにすまない」
 電話を通して聴く御剣の声は、普段より低く響く。耳元で聞こえるその声に、仁菜はいつもどきまぎする。
「い、いいえ、大丈夫です」
「カガク調査はもう少し時間がかかるとの連絡があった」
「はい! ありがとうございます!」

「それから‥‥‥」御剣は、少し沈黙してから続ける。「‥‥今日、キミは大丈夫だったろうか?」
「え?」
 いろんなことが思い出され、戸惑っていると、御剣がもう一度聞く。
「その後、気分が悪くなってはいないだろうか?」

 仁菜は、捜査現場でのことを、御剣が心配しているのだと気づく。
「はい。おかげさまで、外の風に当たってから楽になりました」
「そうか‥‥‥」
「お気遣いすみません」

「うム‥‥‥慣れないうちはよくあることだ。あまり、気にしなくていいからな」
「あ、はい。ありがとうございます」
 この人は、あのあと自分が、ちょっと凹んでたのにも気づいていたんだろうかと、仁菜は思う。こちらを見ている様子もなかったのに。

「‥‥‥カガク捜査の件は、はっきりしたらまた連絡する」
 そう言って、御剣はあっさりと電話を切った。
 (優しい人だ‥‥‥)切れた携帯電話を、仁菜は、ほんのり頬を染めながら、しばらく見つめた。


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