虹の検事局・後編
□第18話(5P)
1ページ/5ページ
■11月22日 地方検事局 8階 新任検事執務室■
「夜芽さん」
仁菜が、新任執務室で書類の整理をしていると、斜め前の席の新任検事が、座ったまま、すーっと椅子を滑らせデスクの傍に来た。ここで同室になって初めて知り合った女性だ。仕事もできる上に、顏も可愛いので、男性新任にも人気のひとだ。いつになくニコニコしている。
「夜芽さんの指導担当は御剣検事だったよね」
「うん。そうだけど」
「彼と、けっこう親しいよね? こないだ食堂で一緒に食事してるの見たよ」
食堂ということは、亜内検事も入れての、打ち合わせを兼ねたランチのことを言っているのだろう。それなら今まで数回ある。
「今、共同捜査してるから‥‥」
「じつはね、御剣検事のこと紹介してほしいんだー。私、彼の超、超、超ファンなんだよね」
「えっ」
「今度、飲み会をセッティングしてもらえないかな? いきなり2人とは言わないから、夜芽さんも一緒に、2対2でどう? レベルの高い男子1名用意するからさ」
「‥‥‥私、そこまで親しくないし、御剣検事って、誰かに誘われても断ってるところしか見たことないよ‥‥」
「そうかー、やっぱりウワサ通りなんだなあ。でも、お願い! 聞くだけでも聞いてみて。大ファンの女の子が会いたがってますからって。それでダメなら諦める」
御剣とプライベートで食事したのは、まだあのレストランで1回きりなのに、飲み会っていうか実質合コンに誘うってどうなのか‥‥‥仁菜はそう思いつつ、押し切られて、言われた通りの内容で御剣にメールを書く。しかも、こんな可愛い新任女性を御剣に紹介するなんて、とても気が進まない。
(きっと断られるよね‥‥)と仁菜は期待する。
■同日 地方検事局 12階 上級検事執務室■
その日の夕刻、御剣が執務室に戻ってノートパソコンを開くと、仁菜からのメールが届いていた。無意識に顔を緩め、それを開く。
「ふむ」
仁菜からの誘いのメールを読んで、彼は考え込む。
知らない人物が2人も来る食事会など、いつもの彼なら、考えるまでもなく辞退するところだ。だがしかし、忙しくてなかなか仁菜をあの店に連れて行ってやれないのも、ずっと気になってはいる。この機会に、久しぶりに彼女と仕事以外の話をするのも悪くない‥‥‥。