虹の検事局・後編

□第18話(5P)
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 御剣は冷笑を含んだ口調で続ける。
「そうやって男をソノ気にさせて、最終的に面倒な思いをするのは自分だ。まあ、それを面倒とも思わないぐらいに、キミもソノ気になっていたなら別だがね」
「こんな短時間で、その気になるわけないですよ」
 仁菜は、限りなくバカにされているような気がしてくる。酔いで少し赤くなった彼女の頬に、さらに赤味が増す。

「だったら、十分に気をつけたまえ。いろんな事件にもなっているだろう。そして事件が起きてから奔走するのは、私たちなのだぞ!」

「い、いきなり事件って‥‥。そもそも、あの人はそんなつもりになってなんか‥‥」
「電話番号を聞かれただろう? それが証拠だ」
「う‥‥‥」

 仁菜は唇を噛みしめた。冗談に笑っただけで、なぜこんなにお小言を言われなければならないのか。このあいだは気にかけてくれて優しいと思ったのに、今日はやたらとトゲトゲしくて感じが悪い。確かに、御剣検事は、軽いノリの冗談とか、バカ笑いとか嫌いそうだけど、何もこんな言い方しなくてもいいじゃないか。バカ話にバカ笑いしただけで楽しい飲み会から連れ出されて、寒い道の真ん中で説教されるなんて、まったく納得できない。

 仁菜は、我慢できず反撃に出た。彼女も1年目とはいえ検事である。

「じゃあ聞きますけど、御剣検事もその気になったんですか? 彼女もずうーっと御剣検事のことを見つめて笑顔でしたよ?」
「私は、彼女のことは見ていない」彼はすました顔で言う。

「なっ‥‥‥。見てないとか、子供みたいな言い訳は止めてください」
「こ、子供だと!?」彼は予想外の言葉に目を剥いた。

「だいたい、ですよ」仁菜は続ける。「飲み会や食事の誘いをいつも断ってるのに、合コンって言ったら二つ返事で来たのは御剣検事ですよ。自分こそ、そういう相手を求めてるんじゃないですか?」

 仁菜に、小憎らしい表情で見つめられ、御剣の唇がふるふる震える。
「ふ、ふ、二つ返事だと? し、失敬な。今回来たのはキミとだな‥‥‥」
 御剣は、はっとしたように突然沈黙した。

「?‥‥‥‥」仁菜も黙る。

 御剣は顔をそむけた。「なんでもない‥‥」

「お話はもう終わりでいいですか? 御剣検事はタクシーですよね。私は電車ですから、ここで失礼しますッ」
 仁菜はぞんざいにおじぎすると、ぷいと顔をそむけて走って行く。いつのまにか降り出していた初雪が、二人の間をさえぎった。


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