虹の検事局・後編

□第20話(5P)
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■12月9日 ゴーユー航空 旅客機G-370■

「ム。やはり狭いな」
 ビジネスシートを見た御剣は独りごとのように言うが、エコノミーしか知らない仁菜には十分な広さに思える。エコノミーシートを二回りぐらい大きくして、前後のスペースもゆったり取った座席が並んでいた。亜内は、一人になりたかったのか、気を利かせたのか、通路を挟んだ席を所望した。

 御剣は、2つ並んだシートの窓際に仁菜を座らせ、手にしていた袋を荷物入れに入れてから、その隣に腰を下ろした。エコノミーより広いとはいえ、隣に座った御剣との距離はやっぱり近い。彼の体の大きさを感じて、仁菜はどきどきする。
 
 旅先であろうが、御剣は一分の隙もなく、髪はきちんと整えられ、服も皺ひとつない。フリルタイもいつもどおり純白で、靴もきれいに磨かれている。こんなに近くにいると、仁菜は、御剣ほどカンペキではない自分の身なりが、ちょっと恥ずかしくなってくる。

 座って一息ついたとき、髪をきゅっと結ったCAが、御剣の脇に立った。ネームプレートに“木之路”とある。
「御剣さま、ファーストクラスにいらっしゃらないので、どうされたのかと思いまして」
 御剣を見つめる目は潤んでいて、頬がすこし紅潮している。
「ああ、同僚とこちらのシートに」
「何かございましたら、わたくしに、なんなりとお申し付け下さいませ」
 彼女はていねいにお辞儀をして去っていった。

「きれいな人ですね」仁菜はちょっと言ってみる。
「うム」
(あっ、認めた!)
 彼女は、やたらとくやしくなる。

「あの表情は、ぜったいに御剣検事のファンだと思うな」
「以前の事件の関係者だ」御剣は、木之路が持ってきた日本の新聞をバサッと音を立てて開くと、淡々と答えた。
 そういえば‥‥‥仁菜は、御剣が解決した、旅客機内の殺人事件が思い当たった。あの事件のCAさんか。

 好天のため飛行機は静かに離陸した。しばらくすると、亜内は、シートを水平近くまで倒し、アイマスクをして動かなくなった。また前方から木之路が現れ、御剣のところにまっすぐ歩いてくる。
「御剣さま、何かお飲物でもお持ちいたしましょうか?」
「いや、私は結構。キミは?」仁菜を向き直る。



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