虹の検事局・後編

□第21話(5P)
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 彼らは、クロークでコートと、トロフィーが入っているらしい御剣の紙袋を取って、広いロビーを通り過ぎ、玄関の外に出た。車回しの前では、ドアマンがタクシーのドアを開けて待っている。夜風の冷たさに、2人はコートを着込んだ。

「さて。出て来たはいいが、どこに行くかが問題だ。キミは、行きたいところはあるだろうか?」
「そうですね‥‥お腹はもういっぱいだし‥‥‥」
 食べ物はちょこちょこつまんだから空腹は満たされている。御剣も頷く。
「では、酒でも飲みにいくかね?」
「うーん‥‥‥」それも悪くはないけれど‥‥‥仁菜は考える。先頭のタクシーは次の客を乗せて去って行った。
「お茶か?」

 仁菜ははっと気づく。
 この贅沢な状況!!
 私は今、あの御剣検事を独占している。御剣検事が、これから2人で過ごす時間を、私の顔を覗き込みながら、提案してくれている。今さっき、2つ目の検事・オブ・ザ・イヤーの盾を受け取ったばかりの、あの御剣検事が!!!!! 
 自分がなぜこういう恩恵にあずかれるのか、仁菜は正直よくわかっていなかったが、顔がにやけてしまう。

 仁菜のにこにこ顔に、御剣も、思わず表情を緩める。
「どうした」
「なんでもないです。そうだ。お茶がいいです」そう、静かなところで紅茶が飲みたい‥‥‥‥。
「そうか。では、どこかの‥‥」
「執務室がいいです!」
「執務室ぅ?」予想外の言葉に、御剣は目を丸くする。
「み、御剣検事の執務室、最近あまり行けないから‥‥。あそこ落ち着くんです。‥‥‥あ‥‥‥でも検事局に戻るなんていやですよね」

「わかった。そうしよう」
 彼はあっさりそう言うと、仁菜を勧めてタクシーに乗せた。車が走り出してから、彼女は言う。
「ありがとうございます」
「礼は無用だ」
「それからイギリスで買っていただいたクリスタルも‥‥‥すごく嬉しかったです」
 それには、また、返事はなかった。


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