虹の検事局・後編

□第22話(5P)
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■同日 地方検事局 12階 上級検事執務室■

 いつもなら、遅くまでチラホラ明かりが点いている検事局ビルも、大忘年会が開催されている今夜はさすがに真っ暗だ。12階の廊下もいつもより薄暗くてひと気がない。自分で提案したものの、こんなに人の少ない検事局に、御剣と二人っきりでいることに、仁菜は、へんに緊張してくる。もしかして、「あなたの執務室に行きたい」って、「あなたの部屋に行きたい」と同じような、ものすごい、やる気満々な言葉だったんじゃないだろうか。

(ま、まさか御剣検事は、そんなふうには思わないよね)
 先を歩いて行く御剣の後ろを付いて行きながら、仁菜は今さらながら焦り出す。彼が執務室の鍵を開けるのを待っている間もどきどきしてしまう。見覚えのあるトノサマンのついたキーホルダーを持ってドアに差し込むその横顔は、いつも通り冷静だ。彼女は少し安心する。

 部屋に入ると、室内は、彼がつけた空調の風の音がやけに大きく聞こえるぐらい静かだった。コートを脱いだ御剣は、黒いタキシード姿だ。彼の白い肌と、薄い色の髪と瞳には、黒もよく合う。さっき、パーティ会場の壇上にいた彼、憧れとともに眺めていた彼が、今こんなに近くにいることが、彼女には信じられない。

「紅茶を‥‥」御剣はそう言いながら、部屋の奥のほうへ歩いていく。
「あっ、私がいれます‥‥」仁菜は慌てて後を追った。
「そこに座っていたまえ」彼はソファに目をやる。「ドレス姿の女性に、そんなことをさせるわけにはいかない」
「いやいや、タキシード姿の御剣検事にこそ‥‥。私なんて、ほんと似合ってないし」

「似合う似合わないという話ではないんだが」
 軽く笑いながらそう言って、彼は立ったまま執務机から電話をかける。
(でんわ?)仁菜はびっくりする。
「御剣だが。紅茶を2人分頼む。それからデザートを適当に」

「どどど、どこに電話したんですか?」
「ホテル・バンドーだ」
「届けてくれるんですか?」
「ああ」彼は涼しい顔をしている。



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