虹の検事局・後編

□第23話(6P)
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■12月22日 地方検事局12階 上級検事執務室■

 仁菜が御剣に呼ばれた約束の時間に執務室に行くと、白衣姿の若い女性がソファに座っていた。ピンクのサングラスをして、縞々の二―ソックスをはいている。かすかに黒砂糖のような甘い匂いがした。
 御剣に、カガク捜査の宝月茜さんと紹介された。

 仁菜の兄が、ナイフで刺殺された未解決の事件。もうあれから10年近く経つが、犯人に結びつく情報は何も見つかっていない。数少ない手がかりの一つ、事件1ヶ月前に仁菜に届いた手紙を、御剣を通して、カガク捜査に回してもらっていた。やっとその結果が出たという。

「遅くなってすみません。ボルジニアからサンプルを取り寄せてたら、かなり時間がかかってしまって」
 茜は、ソファに座った膝の上に小型のノートパソコンを開いて説明を始めた。御剣と仁菜は、その両側に座ってディスプレイを覗き込む。

 そこには、手紙の画像が映し出されていた。
「指紋、文字も一通り調べましたが、やはり新しい情報はありませんでした」茜が言う。「でもここを見て下さい」

 茜がキーボードを叩くと、手紙の端にある直径1ミリほどの小さな染みが、画面上で拡大された。
「食用油と非常に似た成分なので、当時の鑑識も見落としたんだと思いますが、よく調べてみたら、特別なものでした」

 いきなり白いカメの写真が表示され、仁菜も御剣もぎょっとする。
「ボルジニア領の無人島産のシロリクガメです。このカメの分泌物に間違いありません。サンプルを取り寄せて分析したら、成分が完全に一致しました」
 今度はその分析データが表示される。
「ちなみにシロリクガメの体長は、成長して20センチ程度、寿命は30年程度です。ペット用に日本にも輸入されています」

「宝月さんのカガク捜査、すごいですね‥‥‥」
 仁菜はその能力に驚嘆した。
「そういってもらえると嬉しいです。あの、かりんとう食べますか?」茜がどこからともなく袋を出して勧める。
「あ! ありがとうございます」



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