虹の検事局・後編

□第23話(6P)
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「これは遊びでも研修でもない、ホンモノの殺人事件の捜査なのだぞ!! 勝手な行動は絶対許さんッ!!!!!」
 車の窓が震えるかと思うほどの大声だった。今まで、御剣には何度も怒られてきたが、今までの何倍もの迫力の怒声。

「それから、捜査中、携帯電話は必ず携帯して、鳴ったらすぐに出たまえッ!! 緊急事態の連絡かもしれないのだからなッ!!!!!」

 仁菜は青ざめて、あわててバッグを拾い上げ、携帯を探す。マフラーの中に埋もれてなかなか出てこない。やっと出して見てみると、 “御剣検事(携帯)”の着信履歴がずらっと並んでいた。

「夜芽検事!! わかったのかッ!」

「申し訳ありませんッ!!!!!」仁菜も声を上げた。「よ、よ、よく知っているお宅だったので、何か聞き出せるかもしれないと思ったら、いてもたってもいられなくなって‥‥ほ、ほ、本当にすみません‥‥‥」

 言われてみて、仁菜は体が小刻みに震え出した。確かに、これは殺人事件の捜査。この人は本当に怒っている‥‥‥。そして私を心配しているんだ‥‥‥。心配してくれているとわかっても、人からこんなふうに怒鳴られたのは生まれて初めてだったので、怖くて恐ろしくて、御剣の尖った瞳を見つめながら、涙がにじむ。我慢しきれなかった涙が一粒、仁菜の頬を落ちた。

 その様子を見て、御剣の瞳からは、怒りの光がすっと消え去った。彼女から視線を外して、深く息を吐く。
「とにかく、この事件については、どんな行動も、起こす前に、まず私に相談したまえ。かならず、だ。例外はない」
「わかりました」
 流れた涙を指先で拭いながら、仁菜はうなずいた。


「‥‥‥大きな声を出してしまってすまない」
 車を走らせながら、静かな声色で御剣は言った。
「いいえ」仁菜は頭を振って繰り返す。「いいえ‥‥‥」
「もう少し待てば、警察の再捜査も入るだろう。焦らなくていい」
「はい」
 仁菜は何度もうなずいた。

 (つづく) →第24話へ 

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