虹の検事局・後編

□第25話(2P)
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■12月25日 地方警察局病院 救急棟■

 仁菜は救急隊員に毛布をかけられ、救急車で病院に運ばれてきた。
 拘束されたときについた手首の傷の治療と、所轄の刑事から簡単な事情聴取を受けたあと、彼女は一晩泊まることになった病院の個室のベッドで横になる。救急車も入院も、大げさだなと頭のどこかでは感じていたが、それ以上に頭がぼうっとしていて断ることができなかった。
 ただ、処方された睡眠薬は飲まなかった。無理に眠りたくなかった。

 そのせいで、彼女は目が冴え、夜中の1時を過ぎても、明かりを落とした室内で、天井を見つめていた。長年、追い求めていた謎と、それにまつわる苦しみから、やっと解放されたはずだった。しかし少しも気持ちが軽くなることはなかった。兄との思い出が次々と暗闇の中で浮かんでは消える。それでも、なぜか涙は出なかった。頭の芯がマヒしたような鈍い感覚があるだけだ。この数時間の間に起きたことも、まだ細かく思い出せない。

 そのとき、小さくノックの音がした。
 何だろうと見ていると、ドアが静かに開く。廊下からの光で、シルエットになっているが、あの人だとわかる。

「御剣検事‥‥‥」

「起こしてしまっただろうか」
 穏やかな声が聞こえた。
「いいえ、起きていました」
 仁菜は枕元のライトをつけ、体を起こす。御剣はドアを閉めて、ベッドに近づいてきた。やわらかい光が2人を照らす。
 御剣はベッドわきに立ち、仁菜を見下ろした。

「キミは‥‥大丈夫だろうか?」
「はい‥‥。今日は、本当にありがとうございました。御剣検事は?」
「現場検証が今までかかって‥‥疲れた」と言ってフッと笑う。

 あんな出来事のあとで、今まで働いていたとは、なんとたくましいんだろう。ふぬけになってしまっている自分との違いに驚く。この人はやっぱり強い人、男の人なんだなと仁菜は思う。
「ご迷惑をかけてしまって‥‥‥」
 仁菜が話し出すと、御剣がさえぎった。
「気にするな。‥‥‥少し、顔を見たかっただけだ。また今度話そう」



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