虹の検事局・後編

□第27話(3P)
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■12月30日 喫茶とれびあん■ 

「おぅ御剣、ひさしぶりじゃねぇか。オマエまた新聞にのってたな」
 御剣が、喫茶とれびあんのカウンター席に座ると、似合わないピンクのエプロンをしている矢張が声をかけた。のんびりした動きでコーヒーカップを拭いている。

(コイツも新聞を読むのか‥‥?)
 御剣は、年季の入った木のカウンターに、乱雑に置かれた新聞に目をやる。この茶髪であごひげの男、矢張は小学校からの幼馴染だが、いまだに正体がつかめない。いつも神出鬼没で、検事局近くのこの喫茶店でも、ある日突然バイトを始めて御剣を驚かせた。

 裁判所も検事局も年末の休みに入り、喫茶とれびあんにも知り合いはいないと思われたが、念のため彼は店内をさっと見回す。

「オマエ、年末年始どうすんの?」拭き終わったカップを、後ろの棚に置いてから矢張は尋ねた。
「たまっている仕事を片付ける」
 御剣は、新聞を脇に寄せながら続ける。「そんなことより、今日は、少しばかりお前に相談があって来たのだが」

「オレにソウダン??? 御剣が???」
 矢張は目を丸くする。そして、すかさず、「女の子のことだろ」と言い切った。

(ギクッ。なぜこの男は、こういう事にはこんなに鋭いのだ)

「今ギクッとしたろ、ヤッパリな」
 矢張は二カッと笑う。「御剣ィ、オマエ、その女の子とケッコンしろッ!」

「なッ‥‥‥‥‥‥」
 御剣は絶句する。

「そりゃ、オレはオマエのトモダチだけどさ、御剣がオレに相談なんて、初めてだよな? オマエにオレが教えられることといったら、ただ一つ、女の子のことだろ。オマエ、レンアイに悩んじゃったってことだろォが?」
 矢張はつらつら語る。御剣は、その推理がはからずも間違っていないことに妙に感心する。
 
 矢張は、相好を崩し、「いいからケッコンしろおッ」と叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待て、矢張。全くそういう段階ではないのだが」
 御剣は焦って言う。「それから、声が大きい」



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