虹の検事局・後編

□第29話(6P)
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■1月14日 地方検事局 12階 上級検事執務室■

 その翌日、御剣は執務室で、深刻な顔でパソコンに向かっていた。表示される文字を、眉間に深いシワを寄せて追う。時おり低く唸ってはキーを打ち、さらに険しい顔で確認する。

「ミツルギさん! なに見てるんですかぁ? あいかわらず眉間のヒビが深いですよぉ」

 いきなり近くで声がして、御剣は椅子から飛び上がらんばかりに驚いた。目の前に見慣れたマフラーと唐草模様がある。彼が顔を上げると、長い髪を結んだ少女が執務机の正面に立ち、ニッと笑って見下ろしていた。彼女は大泥棒を襲名しているだけあって、ふと気づくとどこにでも入り込むので油断がならない。

「い、いつのまに入って来ていたのだ、キミは」
 御剣は、そろりとノートパソコンを動かす。
「あれれっ、ミツルギさん、今、パソコンをビミョーに動かしてのぞかれないようにしませんでしたかあ?」
「し、職務上のアレだからだ」
「いつもはそんなことしませんよね! あやしいなぁー。何かヘンなの見てたんじゃないですか?」

 彼女はデスクの上に素足の片膝を乗せて、画面を覗き込む。
「ミクモくん! 執務机に足を乗せないようにと、いつも言っているだろう」
 と言いつつ彼は、“告白の仕方”というキーワードで検索していたノートパソコンを、両手で慌てて閉じた。

「いったい、何の用だね」
「リゾートアイランドのおみやげ届けに来たんですよー!っと。ノコちゃんにも買って来たからここに呼んであるんだけど、まだみたいですね」
(私の執務室は待ち合わせ場所か‥‥‥?)
 御剣は渋面を作るが、美雲はおかまいなしに、さらに机の上に両膝を乗せ、閉じられたパソコンを開こうとする。
「や、やめたまえ!」

 画面を見せろ見せないと、2人がやりあっているうちに、糸鋸がノックをして入ってきた。御剣はホッとする。美雲は身軽な動きで、執務机からぴょんと飛び降りた。
「ノコちゃん、待ってたよー!」
「ミクモちゃん、おかえりッス〜。次はゼッタイに自分も連れて行くッスよ!」

「えへへ。今度は、ミツルギさんと3人で行きましょうよ。ミツルギさんに自家用ジェット出してもらって」
「自家用ジェットは持っていない。それより早く用件を済ませたまえ」
 御剣は、今の攻防で少し乱れた前髪を、片手でかき上げながら言う。

「もう、せっかくお土産もって来たのに、冷たいなぁー」 



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