SIDE STORIES

□BEDROOM(5P)
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BEDROOM


―――ピアノ曲の流れる御剣の自宅。週末。

 彼はクラシカルなデザインのカウチに足を投げ出して座り、法律専門誌を読んでいる。仁菜は、その向かいのゆったりとしたアームチェアで法廷ものの翻訳小説を手にしている。その本について御剣は、なぜ英語の原本で読まないのか不思議がる。彼女が「余暇で読んでるんですから」と言っても、彼には理解できないようだ。彼には、仕事も余暇もあまり区別がない。

 広いリビングには立派なホールクロックが据えてあり、静かな音楽の後ろで振り子の音がカチカチと鳴っている。御剣はずっと昔から聞いているので気にならないらしいが、仁菜はその意外に大きな音にまだ慣れない。チャイムは止めてあるため、時計の奥の方がカチリと小さく鳴り夜の10時を知らせた。

「そろそろ、帰ります‥‥ね」本を閉じて仁菜が言った。彼女はまだ丁寧語だ。
「ム‥‥‥も、もしよかったら、今夜は、ここに泊まったらどうだね」
 明日は共に休みなのでドライブにでも行こうという話を、さっきしたところだ。

「え?」
 彼女はどきんとして彼を見る。付き合い出して間がない彼らは、お互いの部屋を行き来してはいるものの、まだ一緒に泊まったことはない。
「あ、いや、その‥‥‥ゲストルームもある」
 御剣は困ったような照れたような目で見返した。

「泊まる用意をしてません‥‥」
「そうか」彼は少し残念そうに言う。
「でも‥‥泊まりたいです」仁菜は少し顔を赤らめた。「近くで、適当にお泊りセット買ってきます!」

「むぅ‥‥そうであれば、官舎まで送ろう」
「えっ、でも」

 (泊まりたいって言ったのに‥‥)

「官舎を往復しても、大して時間はかからない。ありあわせでは不便だろう」
「は、はいっ」

 ****

「なんだかフシギ」
「なにがだね」
「いろいろです。そんな普段着の御剣検事が、車を運転しているのも不思議だし、御剣検事の家と官舎を行ったり来たりしてるのも不思議です」
 まだ呼び名も変わらない。御剣も普通は夜芽くん、と呼ぶ。
「うム」
 普段着とはいっても私の服とは全然違う‥‥‥仁菜は彼の運転する姿を見ながら思う。彼は、自宅にいるときもけっしてルーズな格好はせず、いつもきちんとしていた。そのせいか、彼女は部屋にいてもまだ少し緊張してしまう。



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