SIDE STORIES
□JEALOUSY(2P)
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JEALOUSY
私は仁菜に出会うまで、嫉妬という感情を十分理解していなかった。いや理解という以前に、認識していなかったというべきか。
何事にせよ誰よりも頭一つ抜きん出ていた私は、どんな時も、まわりに嫉妬する必要などなかった。傲慢と言われようが、それが事実だったのだ。そんな感情が自分の中に存在するとは考えてもみなかったし、恋愛に嫉妬がつきものだということについても、残念ながら不勉強であった。
ここのところひどく自分をさいなむ感情が嫉妬と知ったのも、矢張に指摘されてという有様だ。
今思えば、研修中から天杉くんに嫉妬をしていた。2人はただの新任仲間だと頭ではわかっていても、2人が楽しげに会話をして彼女が笑っていると、理由のわからない不快な感情が湧きあがってきたものだ。
今は、彼女の上司である亜内検事にすら嫉妬する。裁判所のロビーなどで、2人で頭をつき合わせて資料を読んでいたりするのを見ると、「近すぎる!」と異議を唱えたくなる。
最たるものは牙琉響也。あの男、いくらなんでも馴れ馴れしすぎる。今日裁判所で、こともあろうに彼女の頭を撫でていた。しかも彼女も彼女で、照れたような笑いを浮かべていたのだ。
それを見たとき私は、文字通り、卒倒しそうになった。
さすがに看過できないと思った私が、知らぬふりをして近づき声をかけると、あの2人は悪びれもせず平然と、私に笑顔を見せた。
いまさっきそこで頭を撫でたり撫でられたりしたのは何だったのだ?
それについて後ろめたさはないのか?
夜芽くん、キミは私の恋人なのだぞ、と言いたかった。しかし、裁判所のロビーの真ん中で言えるわけもなく、怒りのあまり手が震えそうになるのをポケットに入れて誤魔化すしかない、私の惨めな気持ちといったら。
だから私は検事局でも、私たち2人の付き合いを公けにしておきたかったのだ。
仁菜が私の恋人なのだとわかれば、牙琉とてあんなふうに気安く頭を撫でたりできなくなるはずだ。
その後、物陰に彼女を連れて行って、牙琉が触れた髪に何度も触れ直し、あまつさえ唇にアレまでしてしまったのはやりすぎだったか。誰か、たぶん傍聴人あたりに見られたような気がするが、そんなものはかまっていられないほどの心境だったのだ。
彼女が少しだけおびえた表情を見せていたのは、おそらく私の顔が険しかったからであろう。恐い顔をした男に、頭を撫でられたりアレをされたりしたら怖いだろうからな!
しかし彼女にも道義的責任があろうというものだ。
聞いてみると、牙琉が傍聴していた公判での彼女の論告が素晴らしかったとほめられていたそうだ。