SIDE STORIES

□ACTRESS(4P)
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ACTRESS


「ああ、御剣検事。今日は、ちょっと頼みがあって来てもらった」
 御剣が検事局長室に入ると、局長は、上級検事の執務机より幾回りか大きい机の向こうから言った。その前の広い空間には、2脚の立派な長椅子が向き合っている。
「なんでしょうか」
「まあ、座りなさい」

 御剣は、勧められた黒い革の長椅子に座った。検事局長も、手に書類を持って、ローテーブルをはさんだ向かいに腰を下ろす。
「これなんだけどね」
 テーブルの上にすっと出された書類には『あまのがわTV NEWS22 番組企画書』と記されていた。

「この番組で、最近の検察不祥事の問題を取り上げるらしい。検事局へ、現役検事の出演依頼が来た。君も知っての通り、ここのところの不祥事で、我々への風当たりも強い。ぜひ検事局のイメージアップに一役買ってほしいんだよ」
「検察不祥事‥‥‥」御剣は眉をひそめた。「私はこの件に、適任とは思えませんが」

「過去の黒い噂とやらは知っているが、君は別段、不祥事を起こしたわけでもなかろう? それに、最近の目覚ましい活躍があるから、何の問題もない」
「しかし、経験の長い亜内検事や、メディア慣れしている牙琉検事など私以外にも候補がいるのではないかと‥‥」御剣は必死に抗弁する。
「亜内君か。テレジェニックという言葉は知っているかな?」
 御剣は思わず渋い顔になる。「‥‥アメリカにいたときによく耳にしました」

「牙琉君は私も考えた。だけども、彼がアピールできる層はじつは非常に狭い。その点、君は、老若男女に対してそれが可能だ」
 そう言って検事局長はニヤリとした。「とにかく君しかいないんだよ、御剣君。君は将来、最年少検事局長になってもおかしくない逸材だ。マスコミに顔を売って損はないだろう」
 口角は上がっているが目は笑っていなかった。「やってくれるね」局長は有無を言わせない声で言う。
「うむむ‥‥‥」
 御剣は、さらに渋い顔になって唸った。

 局長の部屋を出て、自分の執務室に戻るまでに、彼は思わず仁菜にメールする。これまで、携帯メールはほとんど使っていなかったのだが、彼女にもっと使うように言われて、今更ながらに使い方を再教育されてからは、電話するほどでもないときは便利だなと思うようになった。



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