SIDE STORIES

□TRAP(6P)
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TRAP


 ある日、仁菜の局内メールに、「仕事では誠実だけど、女には不誠実」というタイトルの文書が届いた。送信元は思い当たりのないメールアドレス。彼女は不審に思いながらもとりあえず開いてみる。

『私はM検事に騙されました。あなたも騙されないように。
彼は付き合った女にとつぜん冷めて、ポイ捨てします。
しかも別れる時の言い訳はひどいですよ。
あなたの浮気のせいにされるんです (^^)
新しい女が登場したらご用心\(^o^)/』

(は???)

 仁菜は嫌な気分になる。たちの悪いいたずらだ。御剣は人気だから、2人の噂を耳にした誰かに嫉妬されているのだろう、大騒ぎするほどのことでもない。彼女はそのメールをすぐに削除した。
 しかし、心の中に、一抹の不安が浮かび上がる。

 以前、「御剣検事はプレイボーイッス」って糸鋸刑事は言っていたし、このメールに書いてあるように、彼が冷めたらこの関係が終わるんだろうという気持ちもなくはない。常に上級のものを好む彼が、なぜ自分を選んだのかも謎のままだし。
 新しい女‥‥‥そういえば、最近、検事局のロビーで、キャスターをしている美人女優を何度か見かけた。御剣が彼女の番組に出演して以来、彼にご執心という噂を聞いたが、あんな有名人がまさか‥‥?


 その日の夜、御剣は、仁菜の部屋にやってきた。赤い上着を脱ぐと、いつものようにダイニングチェアに腰を下ろす。狭い仁菜の部屋では、そこが彼の指定席だ。見たい番組があるらしく、来て早々、「ちょっといいだろうか」と言って、めずらしく自分でテレビをつけた。壁際にある小さい画面には、例のキャスターの笑顔か映し出された。
 
「‥‥この女優さん、最近よくロビーで見かけますよ」仁菜は思わず言った。
「ああ」
 気のないようすで御剣が答える。
(やっぱり知ってるんだ‥‥‥)
「何しに来てるんですか?」
「この間は、テレビ局に届いたファンレターを届けてくれた」
「ふ、ふうん‥‥‥」
(ファンレター?? しかもそれをわざわざ???)

 彼は、担当している殺人事件の報道を見たかったようで、彼女が捜査状況のニュースを読み上げ始めると、緩く腕を組んで、じっと画面を見つめた。仕事の目だ、たぶん‥‥‥仁菜は彼の様子をちらちら見てそう思うが、やはり気になる。
 しかし、それ以上、その女優についての質問はできなかった。

 お茶でもいれようと、仁菜は立ち上がりながら声をかけた。 
「‥‥‥そういえば今日、裁判所で私とすれ違ったの気づいてましたか?」
「いや」彼はテレビ画面を見たままだ。
「ずっと見てたのにー。全然こっち見てくれないし‥‥ひどいです」少しむくれてみる。



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