SIDE STORIES

□RAINBOW(5P)
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RAINBOW


 ある休日の昼下がり、官舎の自室で、仁菜は、ダイニングテーブルにつき、静かにノートパソコンの画面を見ていた。と思ったら、いきなりティシュの箱を膝に抱えると、何枚か引き抜いて目頭を押さえながら嗚咽を漏らし始めた。

「どうした?」
 テーブルの向い側で本を読んでいた御剣が驚いて声をかける。

「御剣検事が………かわいそうで………」
「な、なん……だと?」

 頭の回転が速い彼は、あらゆる可能性を一瞬にして思いめぐらす。
 検事局の人事異動が発表になったか? それとも私の過去についてのゴシップニュースか? あるいは最近投資した株の………いやまて株のことは彼女は知らないはず。

 仁菜は答えず、パソコンを眺めながらあふれる涙を拭き続ける。

「一体何を見ているんだ?」
 彼は気になって立ち上がると、仁菜の脇からディスプレイを覗き込んだ。
 そこには小さい文字がびっしりと並んでいて、彼は思わず目を細める。よく見ると、文章のところどころに御剣怜侍という文字が見える。狩魔豪という文字も。
 かつて報道された公判記録か何かでも読んでいるのか、と彼はいぶかる。それにしては並ぶ単語に違和感がある。

「何だろうか、これは」

「御剣検事の小説です」

「なにィ?」御剣は思わず素っ頓狂な声を漏らした。「わわ、私の小説だと? そんな話は聞いていないぞ………許可もしていない!」
 そして何かに思い当たったようで、続ける。「もしや、序審法廷がゲームになるという話の延長上なのだろうか………?」

「ゲームになる? そっちのほうが初耳ですが、それとはたぶん関係ありません」
 仁菜は、当然ながらこのジャンルについてまったく不案内な御剣に、ていねいに説明した。もともと御剣は、美形天才検事として裁判傍聴が趣味の人々の中にファンがいた。公判おっかけと呼ばれる人達だ。しばらく前にニュース番組に出てからというもの、さらにその裾野が広がり、今や彼のファンが全国にいる。その一部が、御剣という人物をキャラクターとして使って、自由気ままに小説を書きネット上に公開しているのである。



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