SIDE STORIES
□RAINBOW(5P)
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「キミは、この小説の私がかっこいいと言うが、実物の御剣怜侍よりもいいとでも言いたいのかね?」
「そ、そんなこと言ってないですよ」
「公判や捜査に明け暮れ刑事とあちこち駈けずり回り犯人に証拠品をつきつけ極悪な犯罪者を有罪にする私より、ひなが一日、セックスすることしか頭になく、ベッドの上で汗と白濁液にまみれた私のほうがかっこいいのか?」御剣の眉間のシワは深くなり、少しだけ息が上がる。
「きゃっ。ヘンなこと言わないでくださいっ。は、白濁とか………」
「もっとワイセツな言葉が並んだ文章を読ませておいて、ヘンなこともないだろう。それとも、私にこのような行為をしてほしいのかね? これは、婉曲的な私への要求か? こうされたいのか?」
いかん。今読んだ文章に完全に支配され、普段軽々しく口にしないようなことを言ってしまっている……目を丸くする仁菜を前に、彼は我に返って焦る。
「こ、この小説のような私のほうがかっこいいのか、と聞いているのだ」
「ちちち違います、御剣検事が今言ったこと、全部違います! 今の御剣検事が一番かっこいいです!! 今のままの!!!!」
「………」
「でも、とにかく感動したんです。いろんな人のところに、いろんな御剣検事がいるんだなあって思って。こうやって読んでると、いろんなかっこいい御剣検事に出会えるんですよ? 素敵だと思いませんか?」
御剣は、ついに、自分の気持ちを理解してもらうことも、彼女を理解することも、諦めた。
「ああ、もういい」と言って目頭をつまむ。「好きなだけ読んでくれたまえ………。ただしキミ一人で、だ。私に読ませるのは、もう二度と、金輪際、勘弁していただきたい」
「あの、はい。すみませんでした………」
―――それから数日後の夜のこと、いつも優しい彼に、ひどく乱暴にされて、仁菜は泣いてしまった。彼はすぐに止めて謝ってくれたが、この仕返しだったのかもしれない。いや、仕返しというよりは確認か。
(完)