SIDE STORIES
□DISTANCE[2/3] (3P)
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〔2〕
仁菜は、自分の部屋に帰ると、重い体をベッドに横たえ、何かから逃れるように眠りに落ちた。夕方には熱が下がってきたので、軽いものを口にしてからシャワーを浴び、またベッドに入る。うとうとしていると、携帯が鳴った。
「私だ。これから行く」
御剣の低い声が、耳元で聞こえた。
「‥‥‥はい」
「何か必要なものはあるかね」
「いえ、特にありません‥‥‥」
彼の感情を押し殺した気配に、仁菜は緊張してくる。
電話を切って、間もなく、部屋のチャイムが鳴った。彼女はパジャマの上にカーディガンをはおって、ドアを開ける。
玄関先には、御剣が憤然とした面持ちで立っていた。それでもパジャマ姿の彼女を見て怒りを抑えたような声で聞いた。
「具合は、どうだ」
「‥‥‥熱は下がったので‥‥もう大丈夫です。ありがとうございました」
「う‥‥ム。ちょっと、いいだろうか」
彼は仁菜の返事を待たず、ずかずかと中に入って行った。
御剣は、部屋に入ると、立ったまま胸の内ポケットから白い紙をつかみ出し、テーブルの上にバンと置いた。
仁菜が、御剣の部屋に置いて来た手紙だ。
「なんだこの手紙は。いきなりこんなものを置いて、一体どういうつもりだ」
彼は仁菜を睨む。
彼女はそこに、自分の気持ちを必死につづっていた。しばらく前から感じていた彼と付き合うことの不安、怯え、限界‥‥‥そして、彼女が見出した結論は、別れることだった。
「わ、私、このままじゃ迷惑ばかりかけてしまうから‥‥‥」仁菜は立ったまま小さい声で答える。
「昨夜のことか?」
「はい‥‥‥それに、今日の判決‥‥‥」
「判決だと?」
「敗訴になってしまって‥‥‥。私のせいです。私がゆうべ‥‥‥」