SIDE STORIES
□DISTANCE[2/3] (3P)
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ベッドに突っ伏していると、チャイムの音が響いた。
まさかまさか、この時間は‥‥‥。
ドアスコープからのぞくと、赤いスーツが見えた。
(彼が、来てくれた‥‥‥!)
ドアを開ける手が震える。
しかし、ドアの前に立った彼は、仁菜の目を見なかった。
「ここに置いていた、私の本を取らせてもらいに来た」
彼は、室内に入るとその本を取り上げ、仁菜が借りていた本を差し出すとそれも受け取り、またすぐ玄関先に戻った。 仁菜は、涙をぽとぽと落としながら、彼の歩く後をついて行った。涙が込み上げて、嗚咽が抑えられない。
御剣は玄関で靴を履き、彼女に背中を向けたまま言った。
「なぜそんなに泣く」
仁菜はその背中を見つめて泣き続ける。
「自分で決めたことだろう?」
「‥‥‥はい」彼女はしゃくりあげながら言った。
「付き合うのが怖いのなら、別れた方がいいと私も思う」
御剣は振り返らず、静かに言った。
仁菜は悲しくてたまらない。彼の顔が見たい。瞳を向けてほしい。怒っているのか、呆れているのか、嫌いになっているのか、まだ少しは気持ちがあるのか。
でも彼は振り返らない。
「元気で」
彼は、ほんの少しだけ顔を向けてくれ、前髪に半ば隠れた白い頬の輪郭が見えた。そして、ドアを開け出て行った。
ドアは、ゆっくり戻ってきて、かちゃりと音を立ててしまった。仁菜は霞んだ視界でいつまでもそれを見つめていた。
(つづく)
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