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□Several Days Later
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Several Days Later
あれから数日後の夜、御剣宅のキッチンカウンター前にて。
奈理は、隣に立つ御剣から紅茶の淹れ方を習っていた。その名もナイトティー。彼がバンドーインペリアルに泊まるとき注文するという、例の紅茶だ。夜寝る前に飲むものをそう呼ぶらしく、二人はすでにパジャマ姿になっている。
御剣に「あまり無理するな」と言われつつ、高い位置から湯を注ぎ、「そんなに真剣にならなくていい」と言われつつ、しかめ面でタイマーを睨む。奈理にとってナイトティーは、特別に気になるところがある紅茶なのだった。
茶葉を蒸らす間、御剣はふと言った。
「それで、キミはいつここに越してくるのだね」
婚約したことは諸々の事情で公けになったが、お互いの生活はまだ変わらずにいる。
「え? 引越す?」
「ん?」
奈理の反応に、御剣のほうが驚いたように聞き返した。「ここに一緒に住めばいいのではないだろうか? 婚約もしたのだし」
「でも、結婚前に一緒に住むのって‥‥」
「だったらすぐに入籍をすればいい。紙切れ一枚の話ではないか」
「ま、待ってください。御剣検事は性急すぎます」
「ぐ」
「しばらく、普通のお付き合いをしたいんです!」
「普通のお付き合いとは‥‥‥?」
御剣は眉間にシワを寄せた。
「待ち合わせてデートしたり‥‥‥」
「一緒に住むとできないことだろうか?」
「なんとなく、違う気が」
「ふム‥‥‥」
御剣が納得しきれない表情を浮かべて黙ったとき、タイマーがポットの葉が開いたことを知らせた。
二人はリビングに紅茶を運びソファに腰を落ち着けた。向かい合うのではなくこうやって並んで座るようになったことが、一番の変化かもしれない。
奈理は時々御剣の肩に頭を乗せたり、意味もなくパジャマの体に抱きついて、シルクのつるつるの感触を楽しんだりしながら紅茶を飲む。こうしていると、彼の言うように早々にここに越してくるのも悪くないかも、と思えてくる。
「じつは、反省していることがあるのだ」
御剣は自分の肩に寄りかかる奈理の髪を撫でながら、またもやふと言った。
「反省? 何をですか?」
彼女は、目をぱちくりとして彼を見上げた。
「も、申し込みというのを調べてみたらだな、その‥‥。私のアレはまったくソレにふさわしいものではないとわかった」
「申し込み?」
「うム」
「何のことですか?」
「だからアレの申し込みだ」
「アレ?」
「ぷ、プロポーズのことだッ!」
御剣はぱっと目を逸らして言った。頬骨の上あたりがほんのり染まっている。