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□Two Months Later
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Two Months Later


 ビッグタワー5階。某新聞社の編集室の窓際で、何人かが面白そうに外を見下ろしている。彼らの視線の先にあるのは、ビル玄関を出たところにあるタワー前広場だ。青々とした芝生が外灯に照らされ、車回しには客待ちのタクシーが並んでいる。

「検事様、今日もお待ちですよ」

 一人が言い、帰り支度をしている奈理を手招きする。気が進まないながら彼女は、先輩同僚たちの近くに歩いていった。壁一面の広い窓から見下ろせば、タクシーの列から少し離れたところに、彼の赤い車があった。

「本当にマメだねえ」
「鬼検事様の意外な一面だな」
「最初見たとき、事件の張り込みかと突撃取材しそうになっちゃったよ」
「確かに張り込みみたいだ!」

 同僚たちは声を揃えて笑い、奈理は頬が熱くなる。彼女はそそくさと自分の席に戻ると、机からバッグを取り上げた。「お先に失礼します!」とだけ言ってその場から逃げるように飛び出す。彼らに悪意がないのはわかるが、毎度こうやって冷やかされるのは本当に照れ臭いというか恥ずかしい。


 あれから2か月近く過ぎたが、御剣は3日と空けずここに来る。日が落ちた頃、彼女の退勤時間を確認するメールが届くのが合図だ。彼女が帰るのが7時でも9時でも11時でも、来る余裕があれば、時間にして10分ほどの検事局から車を飛ばしてやってくる。
 そしてタワー前広場に車を止めて、彼女を待つ。

 車から出てこないときもあるし、今日みたいに、車体に背を預けるようにして、腕組みして立っているときもある。
 時間があればどこかの店に寄って一緒に食事をするが、多くの場合、彼にはその時間がなく、奈理を家まで送ってくれるだけだ。仕事の合間だからとキス一つするわけでもない。
 ただ迎えに来て、送り届けてくれる。まるで忠実なナイトのように。


「今日、仕事は大丈夫なんですか?」
 奈理は助手席に乗り込むと、いつもよりすこし真剣に聞いた。
「大丈夫ではない。このあと徹夜だ」
 車を出しながら彼は答える。
「‥‥だったら、あんまり無理しなくていいですよ。こういうの」

「無理をしたいのだよ」
 彼は薄く笑むと、彼女にちらりと目を向けて言った。
「‥‥会社の人が面白がるんです。検事様はマメだねって」
「婚約者を迎えに来て何がおかしい」
「張り込みしてるみたいだって」

「!!!」
 御剣は、前を見据えたままさっと頬を染めた。「き、キミもそう思うのか!?」

「思うわけないじゃないですか! だけど」
「だけど?」
「いつもそんなことばかり言われてて‥‥」
 それ以上何と言ったらいいかわからず奈理は口をつぐむ。

「わかった」
 彼は紅潮した顔で毅然とうなずいた。
「御剣検事?」
 その呼びかけには答えず、彼は黙りこくる。奈理の家に着いたときも、週末の確認をしたたけで、いつもよりあっさりと彼女を車から送り出した。


 御剣は、それからパタリと来なくなった。退勤時間を尋ねるメールも、届かない。
 彼女から連絡すると取りたてて変わった様子もなく、週末はこれまで通り会って普通に過ごした。
 だけども平日の夕方に彼がビッグタワーに迎えに来ることはなくなった。タワー前広場に3日と空けず赤いスポーツカーが止まっていることは、なくなった。


 ◇ ◇ ◇


 奈理は重々しい木の扉をノックする。金のプレートには1202号の文字。夜9時を過ぎたあたりだが、検事局12階の廊下は静かでひと気はない。



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