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□Two Years Later
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Two Years Later


 御剣は、スーツのポケットから繊細な黒いフレームの眼鏡を取り出し、軽くうつむいてそれをかけた。そして顔を上げ、ざわめく広い店内を見渡す。

「あれ。オマエ、メガネだったっけ?」

 同じテーブルの矢張が、上唇にビールの泡をつけたまま聞く。

「最近少し、見えづらくてな」

 御剣は、遠くに視線をさまよわせながら言った。この日、だだ広いビアホールの丸テーブルの一つを御剣、成歩堂、矢張が囲んでいた。この3人が集まるときは、話題は決まって矢張の失職と失恋問題。その合間に、御剣と成歩堂が仕事のことを短く話す。

 成歩堂は2人のやりとりを聞いているのか聞いていないのか、頬杖をついてぼうっとしていた。普段あまり飲まない酒を口にしたせいか、頬が染まっている。料理の皿はおおかた空になり、矢張だけが飽きもせずビールを飲んでいる。

「オイ御剣! なにキョロキョロしてんだよ。かわいいコでも探してんのか?」
「ム‥‥」
「オマエ新婚だろ!?」
「そろそろ迎えが来る時間だから、様子を見ているだけだ」

「迎えって糸鋸刑事?」
 成歩堂がやっと会話に参加する。

 御剣は、中指で眼鏡を押さえた。「いや。妻だ」

「いや妻だ、か。いいよなァー」矢張が伸びをした。「オレも早くケッコンしてえー!」
「糸鋸刑事なら、ぼくも送って欲しかったんだけどな」
 成歩堂はぼそりと言った。



「みんな送りますよ」
 しばらくして現れた奈理は、丸いテーブルの脇に立って車のキーを小さく振った。
「コイツらは電車でいい」
 御剣は支払いを済ませようとするが、矢張が身軽に立ち上がって奈理のために椅子を引く。

「まあまあ、奈理ちゃんも座んなよ。ホレ」
「あ、はい」
 御剣の隣の椅子に、彼女はひとまず腰を下ろした。
「ケッコンして1年だっけ?」
「そうですね」
「どうなの、御剣は夫として」
 矢張は、奈理の顔を覗き込んでニッと笑う。

「え。優しいですよ」
 彼女は御剣と目を合わせて、ふっと微笑んだ。
「なんか困ってるコトあったら、オレたちが聞くぜ? トモダチとしてガツンと言ってやるよ」
 うんうん、と成歩堂もうなずく。
「コイツ、すげー怖えェだろ? すぐヒトに指つきつけるし」
「ちょっとしたことで怒ったりキレたりしない?」
 茶髪の男とニット帽の男が交互にたたみかけるが、奈理は首を振った。

「いいえ」

 御剣は古い友人たちからの言われように、ムッとした表情で口を一文字に結んでいる。

「オレたちにはひどいぜ。なあ成歩堂」
「ああ、ひどいひどい。嫌味言ったりバカにしたり、あとスネたり」
「そういうのは全然ないですよ。今のところ」
「今のところっていうことは、つまり今後ありそうってこと?」

「成歩堂! それは誘導尋問だッ!」



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