虹の検事局・前編
□第9話(3P)
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■8月8日 地方検事局 12階 会議室■
その翌日は、天杉と2人で御剣による実習だったが、仁菜は御剣の顔をまともに見ることができなかった。御剣もなんとなく不機嫌そうで、淡々と指導し、いつもより早い時間に執務室に戻って行った。
週末をはさんでそのまた3日後も、仁菜と御剣の態度はお互いに変わらず、硬い雰囲気だった。
その日の終わり、天杉が思い切って2人に声をかけた。
「今日は御剣班3人で飲みにでも行きませんか!」
仁菜は緊張して顔を上げられない。しばらく沈黙していた御剣だったが、
「申し訳ないが、私は仕事が残っている。2人で行ってきてくれたまえ」とそっけなく言って、部屋を出て行った。
仁菜はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
次の日も、仁菜と天杉は、御剣の指導日だった。
何日も顔を合わせないときもあるのに、こういうときに限って、毎日のように御剣検事と一緒だ‥‥‥。仁菜はそう思いながら、重い足取りで、実習のため地方裁判所に向かった。あれ以来ずっと不機嫌そうな御剣に、どう接していいかわからなかった。
裁判所での法廷実習の後、検事局のいつもの会議室で、審理の振り返りを行うことになった。一旦、2人が書面でレポートしたものを御剣にチェックされ、さらに質問される。
新任2人は、御剣の正面に並んで座っていた。
「では夜芽くん、ここでの弁護側のロジックの矛盾はどこだった?」
仁菜は唇をかみしめて考える。頭が働かない。沈黙が続く。
「‥‥‥証拠品についての」仁菜が言うと、
「違う!」御剣がテーブルをバンと叩いて厳しく言う。
「ではキミ」天杉を指す。
「あ、はい‥‥‥目撃者、大場の証言の中で‥‥‥」天杉の説明に、御剣がうなずいた。
仁菜が矛盾の指摘を間違えたのは、今日はこれで3度目だ。
御剣は、仁菜のほうを見て言った。「キミはこの研修に真面目に取り組んでいるのかね?」
腕を組みした左手の人さし指が、トントンと右腕を叩く。