虹の検事局・前編

□第2話(3P)
2ページ/3ページ


「ドロボウッスよドロボウ。亜内検事のところはごっそりやられたッス。御剣検事の金庫は大丈夫ッスか?」
「ム‥‥‥例の隠し金庫のことだろうか? あれは今は使っていない」
 過去の事件で一度こじ開けられて以来、隠し金庫は御剣の信用を失っていた。

「あ、あれじゃなくて、壁に作り付けの小さい金庫がもう1つあるらしいッス」
「そんなものは見たことがないが」御剣が眉間にシワを寄せ怪訝そうに答える。
「古い執務室には、ついてるらしいッスよ。えっとこのあたり‥‥‥」と糸鋸は、ガラス扉の本棚に近づいて、手をかける。

「オイッ、何をする!」
 御剣は慌てて、糸鋸の動きを止めた。
「この本棚の後ろの壁あたりに、金庫があるッス」

 トノサマン人形は、補修をすべく昨日のうちにクッションに丁寧に包んで、デスクの引き出しにしまってある。なので、壊れ物はないが、糸鋸のような乱暴者に任せたら、何をされるかわからない。

「とにかく待てッ」と、刑事に言い、御剣は改めて本棚の前に立った。
 棚の足元を見ると、確かに、床材の上の凹み跡がわずかにずれている。
「バカな‥‥‥」御剣はいやな予感がした。

「一人じゃびくともしないッス。御剣検事も手伝ってほしいッス」
 本来ならこのような労働には手を貸さない御剣だったが、今回は2人がかりで本棚をなんとか動かし、壁との隙間を作った。
 隙間を覗き込んだ糸鋸が「あ〜ないッスね。この執務室には2つ目の金庫はないッス」と言う。

 よかったよかったと出て行こうとする糸鋸を御剣はつかまえた。御剣にはおおかた予想がついてしまっていたが、念のため聞いてみる。「盗難は、いつの話だ?」
「昨日の白昼堂々ッスよ。作業着を着た男たちがあちこちの執務室に出入りしたのを目撃されてるッスから、今、監視カメラを絶賛調査中ッス」
 そう言って、糸鋸はピシッと敬礼のポーズを作った。

  
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ