虹の検事局・前編

□第4話(5P)
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■6月9日 ひのまるコロシアム 中ホール■

 土曜日、朝から降り続いている梅雨のはしりの雨は、日が落ちても止まなかった。しかし、天気などおかまいなしに、ひのまるコロシアムのガリューウエーブのライブ会場の中は、ものすごい熱気につつまれていた。

 薄暗い空間に、あちこちから不規則なライティングがチカチカと投げかけられている。
 黒や紫の色使いで、ハードな恰好の観客が多いが、なかには逆にフリフリとしたファッションの一群もいて、御剣のいでたちは、ここでも格別違和感がない。というより、御剣の整ったルックスは、この薄暗い中でも、女の子の目を引いていた。

「こじんまり、と言ってたけど思ったより広い会場ですね」と仁菜は言うが、御剣には、室内楽より広く、オーケストラより狭いホール、という程度にしかわからない。なにしろ、こんな場所に足を踏み入れたのは、生まれて初めてなのである。

 仁菜に誘導されて、奥の数段高くなった場所にあるVIPシートに着席する。スタンディングフロアには人がぎっしり詰まっていて、その先、ステージ奥にはスクリーンがあり、薄暗い感じの、チカチカした映像が流れている。

「あの映像は何だろうか?」御剣が正面に映し出されるものを指さして、仁菜に尋ねる。
「‥‥この会場内をリアルタイムで流してるみたいですね。カメラはどこにあるんだろう?」
 2人は会場内を見回すが、どこにあるのか見つけられない。

 仁菜は、「あ、同期の人達がいる」と、VIP席の脇にあるカウンターバーを差した。
「ちょっと挨拶してきますね。ついでに飲み物も取ってきます」
 御剣は、先ほどからうるさく鳴り響く理解不能の音楽で、頭がクラクラしそうだった。一人にされて、ますます居心地が悪くなり、ここに来たことを早くも後悔しはじめていた。


 仁菜は、カウンター前にいた女性3人に声をかける。ゴドー検事の担当している新人検事たちだ。時々研修で一緒になって、顔見知りになっていた。

「あれ夜芽さんも来てたんだ?」いちばんきさくな雰囲気の1人が言った。「アナタも牙琉検事からチケット貰ったの? 入口で5千円も取られてびっくりしなかった?」
「う、うん。ちょっと」
「一人で来たの?」
「御剣検事と一緒に‥‥‥」仁菜は、カウンターの男から、御剣に頼まれた赤ワインを受け取りながら言った。
「エエエエエーッ!!!!」うるさい音楽の中ですら3人の声が響いて、周りが振り返る。

 
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