虹の検事局・前編
□第4話(5P)
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「御剣検事も来てるの!? 彼は、クラシックしか聞かないって噂なのに‥‥‥」と1人が言い「どこにいるの?」とあたりを見回す。
「クラシックしか聞かないんだ‥‥知らなかった‥‥」
仁菜はちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。
その時、会場を揺るがす爆音とともに、正面のステージに光が集まり、会場から歓声があがった。まばゆい光の中に、牙琉響也の姿が浮かび上がると、ひときわ高い黄色い歓声が起こる。後ろのスクリーンには、響也のにこやかな顔が、どアップで映し出された。
仁菜はその華やかさに、しばし見とれる。
3人の注意もステージに移ってしまったので、仁菜はワインを持って御剣の元に戻った。VIPシートにいる観客も立ち上がっているが、御剣はひとり苦い顔をして、まわりを寄せ付けない雰囲気で座っていた。
「お口に合うようなワインじゃないとは思いますが‥‥」
そう言って仁菜がプラスチックコップに入った赤ワインを渡すと、御剣は受け取って一気にあおる。仁菜も、とりあえず、御剣の隣に腰を下ろした。
2曲が終わると、響也がMCの最後に、「オーケイ。じゃ、ぼくの仕事仲間を紹介するね」と言った。すかさず会場から歓声や、口笛が上がる。仁菜も御剣も(ん?仕事仲間?)と思いながら、ぼんやり座っていると、どうやって探し当てたのか、いきなり御剣と仁菜の姿がスポットライトで照らされた。
「ぼくの働く検事局の同僚だよ。男性は、天才検事とほまれの高い、御剣検察官! ぼくに負けず劣らず、かっこいいだろ? ギグに来てくれたのは、記憶にある限り初めてだよね。サンキュー御剣サン。隣のカワイイ女の子は、その弟子の、夜芽検察官!」
御剣は、何が起きたのかまったく理解できず、目を白黒させてのけぞる。それは仁菜も同じだったが、とりあえず作り笑いを浮かべる。
ステージのスクリーンには、いたずらっぽい笑顔の響也が、どアップで映し出されていたが、その画像が突然切り替わり、こんどは御剣の顔が映し出された。
と同時に、イケメンーだとかカコイイーーだとかヤバイーーなどという声が、マイクを通してなのか聞こえてくる。
御剣は、いよいよ、めまいがしそうだった。