虹の検事局・前編

□第7話(5P)
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 「失礼します」と仁菜が中に入ると、御剣がいつものように執務机の向こうに座っていた。椅子を少し引いて、ゆったりと足を組み、リラックスした表情を浮かべている。
 デスクにはティーカップが2つ載っていて、その前には、薄い髪色のショートボブの女性が立っていた。デスクに乗り出して、御剣に何かを訴えていたようだ。ソファの上に鞭が放り投げてある。
(狩魔検事だ‥‥)

 狩魔冥検事は、アメリカから一時的に帰国し、国際派の検事を育てるため、新人教育に力を貸しているという話だ。仁菜は思わず、あたりを見回すが、他に人はいない。
(ということはあの笑い声は‥‥?)

「あなたは?」冥は整った顔立ちに、興味深げな表情を浮かべて仁菜を見る。仁菜が答えようとすると、御剣が言った。
「研修中の夜芽仁菜検事だ。キミも何度か講義をしているはずだが」
「そうだったかしら。全員は覚えられないわ。それよりレイジ‥‥‥」
「ちょっと待て」
 また執務机に乗り出して話し出そうとする冥を御剣はさえぎり、入口に立ち尽くす仁菜のほうを見て声をかける。
「なんだったろうか?」

「昨日御剣検事から依頼された資料がそろったので、お届けにきました」
「ああ、ご苦労。それは、年代順になっているかね?」
「い、いえ、では今揃えます」
「うム」

 仁菜は、入口近くにある小さいテーブルに書類を置き、年代順に揃え始める。冥はそれにチラリと目をやると、少し声を落として話し出した。
「だから、昔の話は反則だと言っているでしょう?」
「そうか、じゃあ空港でのあの話も反則かな‥‥‥?」
「バカ!!! いつもそのことばかり!!」
「『私の前を歩くのは許さない!』だったかな? クックックッ」
「うるさいバカ!! ほんとに意地が悪いわね!」

 御剣の笑い声を、こんな形で聞くことは予想していなかった。後ろでは、2人の楽しそうな会話が続いていて、御剣はところどころで笑っていた。
 仁菜は、自分でもびっくりするぐらいの強い感情で、頭から血の気が引いていた。震える手を見られないように、2人に背を向けて、書類をそろえる。

 
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