虹の検事局・前編

□第9話(3P)
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「は‥‥はい」
「ではなぜ、こんな簡単なことがわからないのだろうか」御剣は呆れたように言う。
 仁菜は何も答えられない。

「キミは本当に検事としてやっていきたいのか?」
「はい」
「とてもそうは思えない。軽い気持ちでこの仕事を選んではいないだろうか?」御剣は言った。

 その言葉に、仁菜の何かがパチンとはじけた。
「いくら御剣検事でも、そんなことまで言う権利はありません!」と突然大きな声で言う。
 御剣は、仁菜の勢いに、一瞬驚いたような顔をした。

「私は検事になるためにずっと勉強してきました。ずっとです!」仁菜は荒々しい声で言った。テーブルの上の手をきつく握りしめている。
「御剣検事は、私の‥‥‥いや、人の気持ちがわからないんです! だからそうやって‥‥‥人の心を傷つけても平気なんですッ!! いつもッ!!」
 仁菜の頬は怒りのあまり紅潮し、御剣をにらむ目は潤んでいる。

 御剣は腕組みをしたまま、しばらく冷静な目でそれを見つめていたが、
「キミは今日はもういい」と静かに言い、仁菜がまとめたレポートを、彼女の前に差し返した。
 仁菜が真っ赤な顔をして言葉に詰まっていると、「頭を冷やせ」と重ねて言う。

「でも私はずっと‥‥‥」仁菜は、必死な顔で続けようとする。
「いいから出て行きたまえ」
 仁菜は、唇を噛み、テーブルの上に置かれたレポートをひったくるようにして取ると出ていった。


 仁菜が出て行ったあと、御剣はヤレヤレ、と溜息をついた。
「夜芽さん、どうしたんでしょう。なんだか最近おかしいですよね」天杉が言う。
「‥‥うム」御剣は複雑な表情で唸った。
「恋煩いですかね。あはは」天杉は和ませるつもりで言った。

 天杉が想定した相手は御剣だったが、御剣が思い当たったのはゴドーだった。
 御剣の眉間のヒビが深くなった。

 
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