虹の検事局・前編

□第10話(4P)
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「わからん。犯人はまだ捕まってねえ。そろそろ10年になるぜ。彼女が兄貴と同じ司法の道に進んだのは、あの事件があったからだ。事件について調べ、真犯人を見つけるため‥‥‥なのさ‥‥」

 仁菜の家族に殺人事件の被害者がいることに、御剣は少なからず動揺していた。あの屈託のない様子の陰にそんな出来事があったとは。彼の脳裏に一瞬、自らの過去が浮かび、消えた。
 
 ゴドーは、眉間に深くシワを寄せ、考え込む御剣に向かって話し続けた。
「あの夜、‥‥‥アンタと階段で会った夜な、あの時、アイツは、オレの執務室に来ていた。今までもたまにコーヒーを飲みに来てたんだぜ? 貧乏学生だったオレは、昔はよく、夜芽んちでメシを食わせてもらったからな、それぐらいのお返しは当然だろ?」
 御剣は、ゴドーのマスクの赤いラインを見ながら、曖昧にうなずいた。

「オット、話がそれちまった。‥‥‥あの夜、アイツは珍しく真剣だった。採用されて4ヶ月、しびれを切らしたんだろう。なんでも、もう一度調べなおしたい証拠品があるとか言ってたな。だが、研修中の検事に一体なにができる? だからオレはそう言った。
このオレだって、あの事件のことはカタトキも忘れたことはない。だが、犯人の目星とやらが皆目つかない事件なのさ。‥‥‥このカップに広がる、苦くて黒い闇のように‥‥な‥‥」

 ゴドーは、カップを見つめながらそう言うと、ゴクゴクゴクとその漆黒の液体を飲み干した。ちょっと待っててくれ、と彼は立ち上がって、どこからかコーヒーのお替りを持って来た。

「話すと、ノドが渇いていけねえ。どこまで話したか‥‥‥そう、それで、オレは、もうちょっと待て、と言った。オレもできるだけやってきた‥‥‥とな。だが、アイツは、司法試験に受かって、修習生になって、検事になるまで、十分待ったと言う。もっともと言えばもっともだがな。クク」

「あの夜、そんな話を‥‥‥」御剣は、独り言のように言った。

 
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