虹の検事局・後編

□第16話(4P)
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 仁菜が、あのフォルダを膝に置いて、ソファに座ると、御剣が、執務机の向こうから尋ねた。
「資料を読んだのだな?」
「ハイ」

 2人は、御剣のまとめた資料をもとに、事件について話し合った。御剣による指摘は大きく3つ。なぜ仁菜の兄は深夜に大学構内にいたのか、なぜ捜査は大学周辺しかなされなかったのか、そして、事件前に仁菜に届いた謎の手紙のことだった。

「私は、キミのお兄さんは、何者かに呼び出された可能性が高いと思う。自宅周辺が捜査されていないのは、警察の明らかな落ち度だと考えられる」御剣は、真剣な目で仁菜を見た。「それから、問題の手紙が、やはり唯一の証拠品の可能性がある。私のロジックでは、通り魔犯人説は非常に疑わしい」

「はいッ!!!!」仁菜は力を得て言った。
「その手紙は今どこにあるのだろうか?」
「ここに」仁菜は、フォルダの中からそれを取り出し、ソファから立ち上がって渡す。「指紋は、家族の物しか検出されませんでした。それ以外の手がかりもなく、警察からはすぐ返却さました」

 御剣は眉間を寄せながら、その手紙を一通り読む。仁菜への恨みが書かれた、不快な内容だった。
「もう一度、カガク捜査に回してみよう。知り合いに信頼できる人物が1人いる。当時の鑑識で見つけられなかったものが、何か見つかるかもしれない」

「お願いしますッ!」
 仁菜は深々とおじぎをした。スーツ姿もだいぶなじんでいる。その様子を見て、御剣が言った。
「‥‥元気そうだな」

「はい。おかげさまでなんとかやっています」
「ずいぶん検事らしくなってきた」穏やかな表情を浮かべる。
「そうですか? まだまだです」仁菜は照れて頬を染めながら言った。

 しばらく沈黙が続く。

 御剣が口を開いた。「‥‥‥キミは、今日の仕事はもう終わりだろうか」
「あ、は、はい」その言葉に、仁菜は少し期待して、それが伝わらないように願いながら返事する。



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