虹の検事局・後編

□第16話(4P)
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「そういえば、‥‥‥」と御剣が言いかけたとき、執務机の電話が鳴った。彼は一瞬ためらって、受話器を取る。
「御剣だが。‥‥‥そうか、わかった。すぐ行く」眉にシワを寄せ、電話を切った。

「所轄から緊急の協力要請だ。すぐに行かなければならない」
 いつもの厳しい表情に戻っていた。

「これからまだお仕事ですか? 大変ですね‥‥」心配な気持ちと、がっかりした気持ちで、仁菜は悲しい顔になる。
 その表情を見て、御剣がフッと笑った。「いつものことだ。‥‥また、連絡する」
 仁菜は、頭を下げ、執務室をあとにした。


■11日2日 ホテル・バンドー近く バー■

 仁菜は、外での捜査の帰り、官舎から電車で2つ目の、ホテル・バンドーのある駅で降りた。ホテルの近くにあるカウンターバーは、新任研修時に一度行って以来、時々1人で立ち寄る店になっていた。

 研修の時は、気が付かなかったが、ホテル通りは、美しい並木で、この季節、どれも黄色く色づいていた。この通りを御剣検事と走ったのか‥‥‥落ち葉を踏みしめて歩きながら、仁菜は懐かしく思う。

 仁菜が重い木の扉を開けると、カウンターの中の男が、にっこり笑って「あら、いらっしゃい。今日は早いわね」と声をかける。

「うん、今日は外で仕事だったから、そのまま来た」
「あらそう」
彼は、この店のマスターで、仁菜は彼との会話が楽しく、ついつい来てしまう。

 いつものようにカウンター席に座って、出されたビールを飲み、おつまみを摘まんでいると、マスターが声をかける。
「その後、あのイケメンの検事さんとはどうなったの?」
 いきなりの言葉に、仁菜はビールを吹きそうになる。

「どうなったもなにも、ただの先輩後輩ですよ」
「でもあなたの顔には、彼をモノにしたい!って書いてあるわよ」
 ブッと仁菜は本当にビールを吹く。

「ちょ、ちょっと止めて下さいよ。だいたい、私があの人をモ、モノにとかできるわけないじゃないですか。御剣検事は、すごい人なんだから‥‥‥」



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