虹の検事局・後編
□第17話(4P)
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「ぶつかるぅーーどいて下さいー」
仁菜が叫ぶと、あわてて警官が避ける。亜内が避ける。御剣が振り返る。
(御剣検事がよけてくれたら、その先の壁でなんとか止まれそう)
仁菜は焦った頭で考える。
「どいてくださいッ!!」
仁菜は叫ぶが、御剣は振り向きざま、とっさに受け止めるように片手を広げた。その手に捕えられ、仁菜は御剣の胸にぶつかるようにして抱き止められる。意外にたくましい腕と、かたい胸板の感触。頬にヒラヒラが当たる。
彼は少しよろけたが、残った片手で手すりをつかんで体勢を立て直した。
息を切らす仁菜の頭の上から「相変わらずだな」という笑いを含んだ声がする。そろそろと見上げると、マスクが見え、その上に見える目が微笑んで見下ろしていた。
仁菜は慌てて、一歩離れる。心臓がドキドキして、顔がほてる。
「す、すみません!」
「気をつけなさいよ」
亜内が声をかけ、御剣も何事もなかったように、彼との会話に戻って先を歩いて行った。彼らは、地下に着くと立ち止って、事件についての意見を交換する。
「昨夜の時点でこの状況が‥‥‥」
「被疑者の自宅を捜索した際に‥‥‥」
仁菜も脇に立って会話を聞いている。
「夜芽検事はどう思う?」
マスクの上の涼やかな目で御剣がこちらを見て、声をかける。仁菜はびくっとして口ごもった。さっきから、2人の話はほとんど頭に入っていなかった。胸の鼓動は収まらないし、顔のほてりも引かない。あたりが薄暗くてわからないのがありがたい。
仁菜が御剣の目を見つめて、言葉につまって焦っていると、彼は、(ん?)という表情を浮かべて、片眉をかすかに上げる。亜内も渋い顔でこちらを見ている。
そのとき、糸鋸が懐中電灯を片手に、奥から駆け出してきて、「御剣検事、すぐ来てほしいッス!」と叫んだ。御剣と上司は、顔を見合わせ、走り出す。