虹の検事局・後編

□第18話(5P)
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 そう思った彼は、時間の取れる日付を指定し、承諾の返信をする。すると、すぐにまた仁菜からのメールが返ってきた。
『本当ですか? 大変お忙しいと思うので、無理されなくてもいいですよ』と書いてある。

(自分で誘っておいて、何を言っているのだ)
 メールのやりとりが煩わしくなって、御剣は仁菜に電話をかけた。

「その日であれば、かまわない」
「‥‥でも、合コンみたいな感じになるかもしれませんよ」
「そうか。まあいいだろう」御剣には、合コンみたいな感じ、というのがどういうものかわからないが、とりあえず受け入れる。
「もし、つまらなかったら、途中で退席してもらっても全然かまいませんから」
「ああ」
 彼女はさっきから何を心配しているのだろうか。

「そうだ!」仁菜は何かを思い立ったようで小声になった。「たとえば糸鋸刑事に、ウソの呼び出し電話かけてもらうとか! そしたらすぐ帰れますから」
「なるほど」
 御剣は妙に感心する。そんな手があったとは。女性は、つねづねこのような奇策をもって、相手を弄しているのだろうか。しかし、世間話の苦手な自分にも、今後、何かの役に立つ気がする。記憶にとどめておこう、と彼は思った。


■11月26日 夕日通り 南欧料理店■

 御剣は、仕事が立て込み、約束の時間に1時間ほど遅れて、指定された南欧料理の店に着いた。狭くるしい半個室のテーブルに、3人はすでに揃って談笑している。仁菜の隣には、リラックスした表情の男性が座っていて、その向かいに緊張ぎみの女性が座っている。その女性の隣の席が空いていた。

 御剣がそこに座ると、仁菜が新任女性を紹介し、その女性が男性を紹介した。男は司法修習で知り合った、1年目の弁護士だという。
「かのご高名な御剣検事と同席できて光栄です」紹介された新米弁護士はややわざとらしい、かしこまった顔つきで会釈する。

 しばらく4人で仕事のことなどを雑談したあと、弁護士は、先ほどから続いていたらしい話題のために、隣の仁菜に向き直った。
「そうそう。それでね、そのとき僕は言ったんだよ‥‥」
 仁菜は、頷きながら聞いている。

 このテーブル席は、狭い入口以外、全体が洞窟を模した壁で覆われて、やたらときゅうくつで、普通に座っているだけで、隣と体が触れ合いそうになる。向かい側の仁菜と男は、肩のあたりが触れ合っていないか? 御剣は目を凝らす。



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